ある雨の日の出来事







「わたし、雨って好きだな」


誰かに伝える訳でもなく、ただポツリと。
俺の隣に座るソイツが呟いた。



「…何、とつぜん」

「越前は?」

「…………」

「越前は雨嫌い?」



俺の話をシカトされてカチンときたけど、文句言ったとしてもまたシカトされるだけだろう。気になることを見つけたら周りが見えない性格だから、きっと今も俺の質問なんか聞いてなんかいないだろうし。

はぁ、と小さく1つだけため息をついた。



「どったかっつったら嫌いかもね。雨の中学校来るのダルいし、テニス出来ないし。」

「ふーん…なんか越前らしいね。」



質問しといてその態度どうなの。俺の答えを聞けば俺に興味を無くしたのか、また机に頬杖をついて雨の降る窓の外をじっと見ていた。
「そーゆうアンタは?」

「あたし?」

「なんで雨なんて好きなのさ」



俺に質問されると思ってなかったんだろう。目をパチクリさせながら俺のことを見ている。その顔はすごい阿呆面で、笑いが込み上げてきそうになったが必死に我慢。



「…んー、そうだなぁ…」



やっと状況を把握したのか、片方の手を顎に当てて考え出す。そして顎に当てていた手を離し、1つ1つ指を折りながら…



「雨の心地よいリズム感とか、匂いとかー…雨の日だとなんかいつもと見える周りの風景とか」

「雨の音とか、ただ眠くなるだけじゃん。しかも雨の日は1日中暗いから特に。」

「越前は晴れてても雨降っててもいっつも寝てるじゃん!」



あはは、と乾いた笑いが響く。朝部活やって昼部活やって放課後部活やって、疲れてんだから仕方ないじゃん。乾いた笑いに多少気分を悪くして、そのまま表情に出してしまう。そんな俺を尻目に「あ、あとねっ!」と話しかけてきた。



「テニス部が休みになるから。」

「なにそれ、嫌味?」

「違うって!ただ……ぜ…ん……に……から」「ごめん聞こえなかった。もう1回言ってくれない?」





聞こえなかったなんて嘘。小さくて聞き取りずらい声だったけど、聞きのがすなんでそんなもったいないこと俺がするわけないでしょ?





「越前と少しでも長く一緒にいられるから、雨好きなのっ!!」





不器用なりの君の気持、しっかり俺に届いたよ。
明日から何かが変わる気がした。






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