君が笑ってくれるまで







何も出来ないちっぽけな自分だけど、

何よりも、誰よりも、キミを想うことは出来るから―












「ねえ、那華。」

「ん…?」



オレンジ色に染まった部屋。俺と那華が2人っきり。さっきまでカルピンもいたんだけど、すぐにのそのそと部屋を出て行って。だから今は完全にこの部屋には俺と那華しかいない状況。



「…那華、」



もう一度名前を呼ぶと、ゆっくりとこちらに振り向いた。口を開いて言葉を紡いだわけではないけれど、目で「何?」と那華が言っているのが伝わってきた。



「別に、なんでもないけど。」

「…ふふ、変なリョーマ。」



そう言って那華はふにゃりと小さく力なく笑う。いつもと同じように見えるけど、その笑顔はどこかいつもと違っていて。笑ってるんだ、笑ってるのに俺にはどうしても那華が泣いているようにしか見えなくて。
決して言葉では表さないけど…那華は俺に「助けて」と助け求めるサインを出してる気がした。



「ねえ、何かあった?」

「…何かって…何もないよ?」



辛いことあったなら、言えば良いのに。泣きたいなら無理して笑わないで、泣けば良いのに。俺に隠し事なんて、しなくて良いのに。



「……リョーマ?」



那華の首に腕を回して、後ろから優しくぎゅっ、と那華を抱きしめた。その抱きしめた体は俺の腕の中にスッポリ納まってしまい―

…この小さな背中に、どれだけ重いものを那華は背負っているのだろう。



「…ほんとに今日は変だよ、リョーマ。どうしたの?カルピンがいないから寂しいの?」

「たまには良いじゃん。ってかカルピンって…そんなんじゃ無いし。」

「あれ、外れちゃった?リョーマはカルピンのこと溺愛してるから、って思ったんだけど…」



そう言ってはくすくす笑う那華の姿は先ほどよりも明るくなっていて、少しだけ安心した。



「ねえ、那華。俺と約束して。」

「約束?」

「そう。…俺には何も隠し事しない、っていう約束。」

「……」

「言いたくないんだったら、無理して言わなくて良い。…だけど、もし本当に辛くなって誰かに縋りたくなったら、迷わず俺の所に来て。」

「…リョーマの所?」

「そう。良いアドバイスとか言えないかもしれないけど、愚痴ぐらいなら俺にだって聞けるから。」

「…でもそんなことしたら、リョーマの負担になっちゃう。いつもテニス頑張って、疲れてるのに…」

「那華が1人で泣いたりしてる方が、俺にとっては辛いの。」


「……でも、」

「でも、はナシ。那華はそうやっていつも1人で背負い込むんだから。」



一旦那華の首に回していた腕を緩め、くるりと那華の体を1回転させて俺と向き合う状態にさせる。その時那華の顔を覗き込めば未だに俺に申し訳ないと考えているのか、眉間に皺を寄せていて。それを見て俺は思わずぷ、と笑ってしまい。那華はそんな俺の様子を見て「わ、笑わないでよ…!!」と顔を赤くさせている。




ああ、なんでこんなにも、愛しく感じるんだろう。




カルピンを好きだと思う気持ちとはまた別の気持ち。彼女の仕草1つ1つに、いちいち心が反応してる。



彼女が喜んでいれば、俺も嬉しくなり。

彼女が泣いていれば、ポンと頭を撫でたくなり。

彼女が悩んでいれば、俺も一緒に考えて悩みを解決しようと思うし。

彼女が寂しいのであれば、俺のこの腕の中で温もりを感じさせよう。



いつの間にか俺の生活は、彼女が中心となっていたんだ。



そっと彼女の頬に手を当ててみる。突然のことで肩を少しビクッとさせていたが、すぐに目を開いて俺と視線を合わせてくれて。その時の那華の顔は赤くて、でもそんなことを気にしないでにへら、と俺の好きないつもの笑顔を俺に見せてくれて。俺もその笑顔に返すように、にっと笑ってみせる。




「重い荷物は1人で背負ったりしないで、2人で分かち合おう?俺が那華の支えになるから、」




―柄じゃない。そんなこと、自分が一番よくわかっている。

だけど、柄って何?俺らしいって、何?そんなもの達が俺をしばって素直になれないっていうのなら、そんなものすぐに捨ててやる。
プライドだって、何もかも捨ててやる。


那華のためなら、ね。



「リョーマ…」

「…何、」



だけどやっぱり、急に性格を変えれるなんて、そんな上手い話はあるはずがなく。

柄じゃない台詞を言っていればそれはもう恥ずかしくなるもんで。こんな顔見られたくなくて少し俯き加減になってたんだけど、それでも那華には全部お見通しのよう。頬に那華の手があてられて、俯いていた顔を上げさせられる。その時見えた那華の顔は、先ほどの暗い笑顔なんて想像がつかないような明るいもので。



「ありがとねリョーマ。…だいすきっ」



そう告げられて、今度は那華からぎゅっと抱きしめられた。




まだまだ俺は大人なんかじゃなくて、「アンタを守ってやる」なんて台詞言えないけど。

隣にいて支えることは出来るから。だから1人で抱え込んだりしないで、2人で考えよう?



きっと答えが見つかるから―



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TITLE : 恋したくなるお題 様 (PC)