俺がどれだけ想えば お前は俺のことを見てくれる?
俺がどれだけ想えば お前は俺のことを好きになってくれる?
俺がどれだけ想えば お前はあいつのこと忘れてくれる…?
たった1度の、初めての恋
「なぁ、那華」
「なにー?」
「お前…今日もまた仁王と約束してるの?」
「そうだよ、今日は部活休みなんでしょ?雅治が放課後どっか連れってってくれるって言ってくれたの!」
「…ふーん」
「聞いておいてその反応は何よー。もしかしてブン太、私たちがラブラブだからって羨ましい?」
「そんなんじゃねぇよ」
嘘付けー!と笑いながら冗談っぽく言う那華は、本当に幸せそうな笑顔を浮かべていた。仁王の話をする時にいつも見せる、俺には引き出すことが出来ないその笑顔。きっと仁王のこと本当に好きなんだな、ってことが那華の笑顔でわかる。大好きで仕方ないんだろう。
「あ、もうこんな時間!あたしそろそろ行くね?」
「おう。仁王とどっかで待ち合わせでもしてるのか?」
「うん!玄関の前で待っててくれって言われてるんだ。それじゃ、また明日ね!」
「おう、楽しんで来いよ!」
にっこり笑って手を横にブンブン振ってくる那華に、俺も同じように手を振り替えす。那華が走っていなくなって、俺1人しかいなくなったため、急にシーンと静まりかえった教室。那華が去った後でも、さっきまで那華が出てったドアから目が離せないでいて、今の俺にはただ、じっと黙って、何も考えないで、その1点を見つめることしか出来なかった。
俺、ちゃんと笑えていただろうか。幸せそうに彼氏の話をする那華に向かって、ちゃんと笑っていられていただろうか。笑っていられたらいいな。
いつからだろうか。那華を“友達”ではなく、“一人の女”として意識するようになったのは。中学入学してから続く、俺たちの“友達”という関係。
いつになったらこの関係から、もっとお前に近づけられる?
いつになったら俺たちはこの関係から卒業出来る?
多分それは、一生無理な願いなんだろうな。だって、見ただろぃ?さっき那華が見せたあの幸せそうな笑顔。仁王のことが好きで、本当で好きで好きでたまらないって感じの笑顔。俺と話してるだけじゃ出すことが出来ない、あの笑顔…。
ずっと同じ所を見ていた目線を動かし、窓の外へと移動した。その時、ふと目にした光景。1組の男と女が手を繋いで仲良く下校している所。まぁ、ただそれだけなら普通なことだろぃ?だけど、俺が今目にしてのは…
銀色の派手な頭の色した男に、その隣には本来いるはずの彼女ではない、見知らぬ女子…。
「アイツ……ッ………くそっ!!」
本能ってこういうことを言うんかな。気づいたら勝手に足が動いてて、さっき那華が出ていったドアから俺は全速力で走って教室を出た。
…もしも。
もしもあの光景は那華が見てたとしたら、って思ったら考えるよりも先に足が動いてた。那華が去っていってからまだそんなに時間は立っていない。だからきっとまだ学校の何処かにいるはずだ。
なあ、那華。お前本当は気づいてるんだろぃ?仁王はお前の他にも女がいること。ただの噂だけど……お前なら、わかってんだろ?お前の視線の先はいつも仁王だもんな。仁王と他の女子と話してるの見かけて、お前が悲しそうな顔してその光景をずっと見てるの、俺知ってるんだぜぃ?泣きそうなのに必死に堪えてる姿。密かにだけど、肩震えてたぜ…? 見てるこっちがすごく切なくなった。
なんで、そんな悲しい想いしてまでも、お前はアイツを好きでいるんだ?
なんで、そんな悲しい想いしてまでも、お前はアイツの傍にいるんだ?
今も、お前は悲しい想いをしてるんじゃないだろうか。お前の大好きな人、仁王のことを想って。
お前には、悲しい想いなんてしてほしくない。
お前には、心から笑っていてほしいんだ
例えそれが俺のものにならないとしても、那華には
幸せになってもらいたいんだ。
***
「那華!」
教室を出て全速力で走り始めて、どのくらいの時間がたったのだろう。息が切れて上手く呼吸が出来ない。部活やってるからなのか、足はまだ平気だけど少しだけフラフラする。
「那華………ッ…」
俺が那華を見付けた時、那華は玄関傍のベンチに座って、ただボーっとしてる様子だった。声をかけても返事がないから、急いで那華の傍まで駆け寄った。
瞳いっぱいに溜めてぽろぽろと流れてくる涙。それを拭おうともしないで、ただある1点だけを見つめる那華。その目線の先は………仁王と待ち合わせするって俺に嬉しそうに教えてくれた場所だった。そんな那華をみているこっとが、すごくすごく、切なくなった。
「那華!」
「…え、ブン太…?」
そんな那華を俺は思わず抱きしめてしまった。さすがにこれには気づいたのだろうか、那華が驚きの声を上げる。
「ブ、ン…「仁王なんか忘れちまえよ。」
「………え?」
「仁王じゃなくたって良いヤツたくさんいるぜぃ?それなのに、なんで仁王なの?」
「……。」
「…俺、お前の悲しい顔なんか見たくないんだよ…。泣いてる所なんか、見たくないんだよ!!」
ギュッと那華を抱く腕に力を入れる。
「ブン…」
「好きなんだ。」
「…ッ、……え、…?」
また、那華の言葉を破って、俺の想いを伝える。
「ずっと前から、お前のことが好きだったんだよ。」
「…う、そ……!」
「俺だって、那華のこと大好きなのに、那華のこと大切にしてやれるのに、なんで、仁王…?」
「………。」
「…俺、ずっと前から那華が好きだぜぃ?なぁ、那華。俺が那華の隣にいるの、駄目?」
那華を抱いている手が、震える。ずっとずっと、言いたかった言葉。だけど“友達”という関係が邪魔して、今まで言えなかった言葉。俺の腕を那華の手がギュッと握る。俯いてるから、その表情を伺うことが出来なかったけど。
「ごめん、ブン太…。」
「……。」
「ごめん。ごめん、ね。ブン太の気持ち、嬉しいけど、」
わかってる。那華が次に言う言葉なんか、前々からわかってる。
――…聞きたく、ない。
「私はやっぱり、雅治のことが、好き…」
わかってた。俺の気持ちが叶わないことなんて、最初からわかっていた。だけど、何でだろうか?目頭が熱くなっているのは。瞳からなにかが零れ落ち、俺の頬を濡らしているのは、何故なんだろう?
俺の初めての、初恋。何回か女と付き合ったことあるけど、自分から好きになるヤツなんて、お前が初めてだった。
俺の腕に何か冷たいものが零れ落ちる。…何で、お前まで泣いてるんだよ…那華。さっきから泣いてひたすら俺に謝り続ける那華。そんな那華を見たら、もう何も言えなくて。那華が泣いてたら、逆に俺までもっと泣きそうになって…
わかってた。俺の想いが叶わないなんて、最初からわかってた。俺の方が絶対幸せに出来るのに。俺だったら泣かせたりなんかしないのに。何度も頭の中で思った。だけど、こんな事を思ってたってなんの意味もなく。
「なぁ、那華…」
「…なぁに?」
自分のものにならないのなら、せめて、これだけはお願い…。
「…幸せになれよ」
どうか、泣かないで。お前の泣いた姿なんか、見たくないんだ。俺が引き出すことの出来ない笑顔、仁王なら出来るから… どうか笑って。心から、楽しんで。
「ブン、太…」
「…ん?」
「ありがとう」
俺にとって初めての初恋。一生に一度しかない、初めての恋。 “初恋は実らない”俺はこの通りになってしまったけど、君に想いを告げたこと、君に恋に落ちたこと。俺はこれっぽっちも後悔なんかしてねぇよ。俺の気持ちは叶うことはなかったけど、人を想う気持ち、悪くなかった。
なぁ、俺からお前への最後のお願い、聞いてくれる?叶わなくたっていい、ずっとじゃなくてもいい。…せめて、大切なヤツを見付けれるまで。
お前のことを想わせて――――…
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