強く、強く抱き締めて。
そう言われて腕の力を強めた。
言われなくともそうするつもりだった。


黒の教団の、しかも最前線で戦うエクソシストである俺たちには常に命の危険が付き纏う。
いつ最期の別れがくるかも分からない。そんな中で俺たちは惹かれ合った。或いはそんな生だからこそ迸るような感情が沸き上がったのか。


どちらにせよ、俺と俺の腕の中にいる女を繋ぐものは互いに通じ合った感情のベクトルだけで、それ以外に何のよすがもなかった。
余りに不確かで、そして拙い繋がりだ。


こいつ曰く、俺の言うことは信用が出来ないらしい。
俺の言葉は信じられないのだと。


「ユウ、今なに考えてる?」


不意に彼女が腕の中から顔を上げて訊いてきた。「別に」。そう答えると嘘でしょう、と言われた。
わかっているならば訊かなければ良いものを。


「ユウの言葉は信用に値しない」


「悪かったな」


「さらさらそう思ってないくせに」


言って、彼女はもう一度強く抱き締めてと言った。
正直、抱き締めるのは苦手だった。丁度良い具合がどれくらいか分からなくて、つい加減なしに力を入れてしまう。


今度もそうだった。
彼女の息を詰めるような音を聞いて慌てて腕の力を緩める。


「───どうして緩めたの?」


「加減が分からない」


そう返すと彼女は俺の胸に額を強く当ててきた。


「加減なんてしなくて良い」


布でくぐもった声で、小さくそう聞こえた。
彼女の額があるのは丁度心臓の真上で、紡がれる言葉一つひとつが直接心臓に染みてゆく錯覚を覚えた。


「ユウの言葉に信用する価値はない。でもこの腕の力と温度は嘘をつかないの」


だから、加減なんて必要ない


不確かで拙い繋がりの中の、確実に確かなもの。


先のことを、未来を確約出来ないのならばせめて───今だけは。


可愛げの無い女。
そう呟いて、俺は腕にもう一度力を込めた。







神は死んだ。
ニーチェもまた然り。

(それはつまり、絶対の永遠性なぞ望めないということです).
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