「グリーン」

名前を呼ばれて振り替える。
途端にくらりと眩暈がした。

綺麗なデコルテを縁取ってるのは薔薇を模したケミカルレースだ。柔らかな胸の膨らみに合わせて光沢のある布が真珠のような光りを返し、そのまま腕が回せそうな細さの腰まで続いている。

今日の為に特別に誂えた、目の醒めるような、純白のウエディングドレスだ。


「変…じゃ、ないかな?」


恥ずかしがるようにはにかむ名前。
その仕草がすげー可愛い。
やべ、顔がにやける。


「すげー綺麗だよ」

「本当?」

「ほんと」

「嬉しい」


そう言って名前は光が零れるように笑って目を細める。その瞳が僅かに潤んだのを俺は見逃さなかった。


「まだ泣くなよ。式はこれからなんだから」

「うん……!」


名前は俺に向かって花が咲くように笑う。キスしておもいっきり抱き締めたい衝動に駆られたがグロスが落ちるだろうから耐えた。
よくやった、俺。

抱き締める代わりに名前を抱き寄せると、小さな身体がそっと寄り添ってきた。
ふわり、と。ブーケだろうか、薔薇の香りが鼻をくすぐる。


「グリーン」

「お、おい名前、」


寄り添ってくれるのは嬉しいが、こうも密着されると流石に動きづらい。俺は彼女に制止をかけたが名前は止まらない。薔薇が強く香る。


「グリーン、グリーン」

「離れろって」


式当日になんつー不吉な台詞だよ。だが名前は一向に離れる気配を見せない。背中に壁、前には名前。迫られてんのか、俺?いやいやいや、俺はどっちかっつーと迫る方が好みなわけで。ってかホント、やべ。何か苦しくなってきやがった。


「やめろよ名前っ」

「グリーン、グリーン、グリーン」


名前の声が狂ったように幾度も木霊する。止めろ、止めてくれ。夢みたいに綺麗な姿でも、そんな風に、壊れたように呼ばれたんじゃ喜べない。
濃密な薔薇の香りにむせそうだ。気持ち悪い。
グリーン、グリーン、グリーン、グリーン、グリーン、グリーン、グリーン、グリーン


「───グリーン!」

「ッ!」


一際強く呼ばれた瞬間、目の前から名前の姿は掻き消え、代わりに画面一杯にロゼリアがいた。


「な……っ!?」

「あ、やっと起きた?」


ひょいとロゼリアを持ち上げた名前はそのままボールにしまった。
無論、ドレスなんて着ていない。


「ごめん、寝てたからそっとしとこうと思ったんだけど私がちょっと目を離した隙にグリーンが襲われてて…」


離れなかったから仕方なく起こしたの、と名前は続け、俺は取り敢えずソファから身を起こした。
つまり、なんだ?今までのは全部夢なわけ?夢オチ?
……なんだこの虚無感。


「ホントごめん!グリーンが襲われたとかっ」

「…頼む。これ以上襲われたとか言わないでくれ。男として色々とショックだから」

「あっ、ごめん!」


慌てて謝ってくる名前。襲われるとか男の沽券に関わるだろ。いや、うん。たまにはそれも良い。名前だったら許すけどさ。やっぱ色々とショックだ。
取り敢えず、名誉挽回をしておきたい。


「名前、」

「ん、何グリー……んっ!?」


どさり。名前をソファに押し倒してすかさず上に乗る。うん、やっぱこれだろ。


「なっ、なっ、なっ……!」

「やっぱ襲われっぱなしじゃヤだし、さ?」


にっこり笑って、俺は名前の首筋に唇を寄せる。
薔薇なんかよりずっと良い香りが鼻を掠めた。





パクス・ブリタニカの息の根を止めよ


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このご時世に夢オチ。
最早文章としての価値はあるのか。
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