「はぁ……、は…」


……しくじった。


満身創痍の身体を引きずりながら何度もその言葉を繰り返しては自己嫌悪した。
間抜けな話である。襲ったら返り討ちに遇って深手を負わされた。しかも変な術式に掛かったらしく、回路がおかしい。早く何とかしなければならないが如何せん魔力は底をつきかけていた。



「───無様だな名前」

「言 峰…綺礼…!……なんで、あんた、此 処に」


言葉を取り繕う余裕もないほど彼女は驚いた。

此処は自分の工房だ。
無論、その存在を知る者はいない。なのになぜ言峰が。


「血にまみれ、虫の息。立つこともままならず地を這いずりまわる……今のお前は見れば見るほど無様で憐れだ」

「……喧嘩、売ってんの…?」


喧嘩を買い付ける余裕なんてないのに名前は言峰を睨み付けた。
言っておくが、彼女はこの言峰綺礼という男が死ぬほど嫌いだった。


「助けてやろう」

「!」


唐突にそんなことを言われて名前は一瞬驚く。
だが覆い被さってきた綺礼の行動の意味を理解して、咄嗟にその屈強な身体を押しかえした。


「嫌だ。あんたの助けなんて絶対に……嫌だ!止めろって!お前の助けなんて……!」

「強情だな」

「放せ!やっ……放して!───んぅ」


顎を掴まれ無理矢理こじ開けられた口に唾液と舌が入り込んでくる。
それでもこの男の魔力など受け取るものかと必死になって唾液を吐き出そうとしたがその抵抗も虚しく最後には彼女の喉は小さくそれを嚥下してしまった。体液に含まれた魔力が淡く体内にしみてゆく感覚が堪らなく厭わしく、彼女は口腔を嬲る綺礼の舌を一思いに噛んだ。


「!」


不意に感じた痛みに綺礼は唇を離す。


──…してやられた。


その薄い唇には唾液に混じって血が伝っている。
綺礼が舌打ちしながら己の血の混じった唾を吐くさまを眺めて、名前は浅い呼吸を繰り返しながら会心の笑みを浮かべる。


「はぁっ……あんたの思い通りになんて…はっ……なるもんですか」


気丈な女だ。
あのまま流されていれば楽になれたものを。
この瞬間、綺礼の中に生まれたのは加虐心と征服欲だ。
いかにこの女を蹂躙せしめるか、いかにこの気丈な精神を踏みしだくか。
己に屈服し絶望に喘ぐ女のさまを想像したとき、綺礼は初めてこの女そのものに性の情動を感じた。


「っ!」


そうなれば事は早い。
綺礼は素早く名前の手を一括りにすると煩わしい衣服を黒鍵で中央から一気に引き裂いた。


現れたのは白い肢体だ。
所々丸みを帯び、柔らかな肉がついている。
小ぶりだが確かな膨らみを持つ両の乳房と、くびれから腰、尻、太股へと流れる滑らかな曲線がいかにも女だと綺礼に知らしめる。

それは代行者として鍛え上げた綺礼自身の肉体とは明らかに異なるものであり、ともすれば同じ生物であることすら疑わしく思われた。


「い゛……っ」


女を屈服させる方法を幾つか知ってはいたが、綺礼は手始めに名前の首筋に噛み付いた。快感に変わるには些か過ぎた痛みに彼女はあっけなく笑みを崩す。
気を良くした綺礼は鬱血痕をいたぶるように舐め上げて、そのまま耳まで一気に舌を滑らせた。

外耳を食み、吐息を絡ませる。

わざとらしい音を立てて耳の中に舌を這わせれば快感と恥辱とで名前の身体はびくびくと震えた。


「花というよりも奴隷の烙印だな」

「、ぁ……!」


綺礼の下で声を殺して喘ぐ女はしかし尚も従順にはならない。
そうでなくては面白くない。

だが次第に殺しきれなくなっている嬌声といやらしくも愛液にまみれた内股とが、崩壊寸前の名前の理性を何よりも如実に綺礼に見せ付ける。


「こ、言峰、やめ……!」

「聞こえんな」


綺礼は片腕で女の身体を浮かし、目の前でふるえた頂きの片方を口に含んだ。胸の飾りに赤子のようにしゃぶりつけば名前は一層高い嬌声を上げ、自由になった手で綺礼の頭を掴んだ。
それは縋るようにも拒むようにも思われる手付きで、このとき綺礼にはこの女が哀れにも愚かしくも可愛らしくも感ぜられたのである。
そして綺礼の空いている方の手は名前の胸から臍、内股を通り、最も強く雌の匂いを放つ部位へと至った。


過ぎるほどに濡れそぼったそこは元来そういう目的で作られた場所である。拒む名前自身の意思を置き去りに、彼女の性器はある意味当然の如く綺礼の指を呑み込んだ。
異物の侵入に名前の呼吸がつまる。しかし性器の形を探るような、それでいて暴くような指の動きは彼女に喘ぐことしか許さなかった。


「ひっ……ァ、あぁっ…っ…、、ぁあ……!」


ぐちぐちと卑猥で聞くに堪えない音が彼女の唾液にまみれた耳を犯す。
感じたくないのに感じてしまう。
熱を持った子宮が、快感に従順な己の肉体が、最後のひと欠片の理性に縋る彼女にはどうしようもなく嫌だった。


「ほう、考え事とは随分と余裕のようだな」


そしてその彼女の苦悩は綺礼に歪んだ愉悦をもたらす。
ずるりと指が胎内から引き抜かれた次の瞬間、いきりたった綺礼の性器が彼女に捩じ込まれる。


「ひ……あぁぁぁぁ……っ!」


挿入の瞬間の、名前の絶望に染まった表情に綺礼は背筋を駆け上がる何かを感じずにはいられなかった。


───嗚呼、苦痛に歪むこの女の顔の、なんと艶めかしく美しいことか!
全身はおろか脳髄の内側にまで満ち満ちるこの充足感の、何と甘美なことか!


腰を打ち付ける度に跳ねる女の肢体にこぼれ落ちた己の汗に綺礼は今になって興奮した自分自身を自覚した。



「受けた傷は、ここか」


弾力を持ってふるえる乳房の下、左脇腹付近で唐突に綺礼は指を滑らせた。吸い付くように柔らかなな肌は何処までもすべらかだが、その傷口は不釣り合いに赤黒く陥没している。


「止血と痛覚の麻痺はしてあるが、満足に治癒魔術を使う余裕は無かったらしいな。可哀想に、どれほどの激痛がお前を苛んだことか知れない。安心しろ、この程度の傷なら私が治せる。今は存分に、」



「───っあ゛あ゛あ゛!!」


「苦痛にもがくといい……!」


無骨な指が容赦なく傷口の肉を抉る。止まっていた血液が再び流れ、男の指を赤黒く染めた。そして同時に女の腟もまた、苦痛に呻くかのようにきつく綺礼を締め付けるが、綺礼はそれを押し開くかのように抽挿を繰り返す。


「痛い痛い痛い!!やっ、あ゛っ、あ゛ぁぁぁ!!」



嬌声では決してない女の悲鳴に綺礼は迸るような快感を感じていた。


「そうだ、その顔だ…!名前、私はそれが見たかったのだ……!」


熱に浮かされたように綺礼は吐き捨てた。
らしくもない興奮を示すように腰の動きがにわか速くなる。唾棄すべき獣か何かのように無様に呼吸が乱れる。
だがこの高揚を一体どうして鎮めることができよう!


嫌悪する男に身体を暴かれ、雄を捩じ込まれ、あまつさえ激痛を与えられる女の絶望は嗚呼、果たしていかばかりであろうか……!


それを考えたとき綺礼は己の脊髄を駆け上がる情動を感じ、女の胎に更なる絶望を注ぎ込んだ。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -