眠れる君に口付けを


大好きだった

子供みたいに甘える顔も

楽しそうに笑う笑顔も

真面目なときのキリッとした顔も

なによりも

俺を甘えさせてくれる

俺を安心させてくれる

俺の頭を撫でるその手が

大好きだった



ピッ ピッ ピッ ピッ……

「おはよう優雨。俺今日はボイトレしたら予定ないからさ、すぐ戻ってくるからな」

「…………」

「なぁ…もう朝だぜ?早く…」



起きて……――――。



優雨が事故に遭い意識不明になってから、今日でちょうど一年。
去年の12月24日。クリスマス・イブ。
二人だけでクリスマスパーティをしようか。
アキラはその日お仕事?
じゃあカウントダウンクリスマスパーティをしようか。
そう楽しそうな声が、最後の声だった。

優雨は東京より離れた愛知に住んでいた。
地元が愛知なので、やっぱり地元で働きたいということで、九瓏ノ主学園を卒業してすぐに愛知に戻った。
優雨の仕事は、ウエディングプランナーだった。
人の幸せを、一番近くで見守れる、とても素敵な仕事だよ。
そう誇らしげに話していたのが、今でも頭に焼き付いている。

そんな優雨と会えるのは、年に2、3回程度。
その貴重な1回が、クリスマス・イブだった。


愛知から東京に向かう電車に乗りこんだ優雨。
その電車が脱線し大事故になったと知ったのは、アルスマグナのクリスマスライブが終わったすぐ後だった。
優雨が来ることを知っていた泉が、ライブ終わりに見たニュースにそう書いてあったと教えてくれた。
俺はすぐに優雨のケータイに連絡した。
無事でいればきっと優雨の声が聞ける。
大丈夫。大丈夫。
そう思っていた俺のケータイに聞こえてきたのは、知らない女性の声だった。


『このケータイの持ち主の方の知り合いですか!?』

『はい…!優雨は!?優雨は無事なんですか!?』

『意識不明の重体です…。すぐに○○病院に来てください!!』

『っ……わ、かり…ました…』


病院について優雨の顔を見た時、呼吸が浅いのがわかって、途端に怖くなった。
このまま優雨が目を覚まさなかったら?
このまま優雨が死んでしまったら?
そう考えるだけで、俺の心臓が止まってしまいそうだった。

死者が多く出たその事故の数少ない生存者が優雨。
それでも…


「目が覚めないなら…死んでるようなもんだよな…」


それでも、確かに動く優雨の心臓が生きる希望を捨てないように、俺は毎日仕事の合間を縫って病院に通い詰めた。

でも、いい加減限界だった。
優雨の心臓が生きる希望を捨てる前に、俺が優雨の目が覚めるという希望を捨ててしまいそうだった。

こんな時、あの御伽話なら、キスをすれば目が覚めるのに。


「そんなことで目が覚めたら…世の中苦労しないよな…」


そう自嘲気味に笑いながら、そっと優雨の唇に口付けを落とした。
唇を離しても、やはり優雨の目は開かない。
そりゃそうだよな。
そう思って椅子から腰をあげた。

その時だった。


「…ん……」

「え……」


ふっ、と優雨の瞼が上がる。
2、3回眩しそうに瞬きをすると、驚いた顔の俺を見てこう呟いた。


「おはよう……アキラ…」





眠れる君に口付けを
(呪いを解く鍵は、ずっと手にしていた)



 

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