例えるなら


赤い、赤いリンゴみたいな

甘い、甘い誘惑に泣き

長い、長い後悔の先には

なにか、あるのだろうか


好きですタツキ様。
一介の使用人の分際では御座いますが、タツキ様のことを、恋い慕っております。
でもこの気持ちは、言葉にしてはいけないもので、音にしてもいけないものです。
だから私は、ひたすらこの想いを胸に飼い慣らし続け、秘め続けるのです。


「優雨ちゃん?どうしたの?」

「...あ、めろんぱさん...」

「なんだか顔色悪いよ?具合とか、気分が良くなかったりする?」

「いえ、大丈夫です...っ」

弱々しい子供のような笑顔。
この使用人の仕事をするようになってから習得した、便利な技だった。
もっとたくさん便利な技を覚えた。

気丈に振る舞うか弱い乙女の顔。
いつでも涙を操れるようになるスキル。
花の咲くような満開の笑顔。

全部、この仕事を始めて身につけた。
これを使いこなせば、同僚の使用人を欺くことも、タツキ様への想いを心の秘めながらお世話をするのも、容易いことだ。

その時、チリンチリンと鈴の音がする。
タツキ様のお呼びだ。
心なしか急ぎ足で、タツキ様の部屋に向かう。
あぁ、早く、早く、はやく。


コンコン

「失礼します。
タツキ様、使用人の優雨が参りました」

「あ、どうぞ入って入って〜!」

「失礼します」


タツキ様は、机に座りながらなにやら書き物をしているようだ。
あぁ、愛おしい。


「今ね、学校の課題やってて、わかんないところがあってね、だから、優雨ちゃんが来てくれてよかったー!」

「っ、左様でございますか。わたくしめを頼っていただけて、光栄に思います」

「もー、優雨ちゃんは硬いなぁ...。ま、それも優雨ちゃんの良いところだよね!」


ニコニコと笑って下さるタツキ様。
あぁ、愛おしい。


「それで、どこがわからないのでしょう?
わたくし優雨、全力でサポートさせて頂きます」

「あ、そうなのそうなの!
ここの数式の意味がわからなくて...」

「あぁ...なるほど。これはですね、こちらにこちらを当てはめると......──」


タツキ様?
必死に私の説明を聞くタツキ様が、愛おしくて堪らないのです。
願わくば、私だけのものに...
いえ、私をタツキ様だけの玩具にして頂いても構いません。
どうか、どうかその笑顔を、私にだけ......。








「タツキ様、少し休憩なさいますか?
今紅茶と茶菓子をお持ちします」

「わーいお菓子ー!」

「うふふ、待っていらしてくださいね」


そうだ。惚れ薬だ。
それを使おう。
いずれを考えて、入手した惚れ薬。
もう限界だ。
タツキ様のお世話をするだけでは足りない。
お隣に寄り添い、死んでなお横でずっと手をとっていたい。
そうだ。それしかない。


お茶に少し、ピンクの液体を混ぜる。
さぁタツキ様。私を想ってくださいまし。


コンコン

扉を叩けば、タツキ様に扉を開けていただいた。
あぁ、愛おしい。


お茶の準備をして、ティーカップに紅茶を注ぐ。
甘い香りが、もうする。
甘い甘い、甘美な香りが。


「なんか紅茶からあまーい匂いがするね!
何のお茶?」

「今日は僭越ながら、わたくしめのオリジナルブレンドのフレーバーティーになります。
茶菓子には、イギリスから取り寄せたファントム社のチョコチップドクッキーでございます」

「すごいね優雨ちゃん!さっそくいただきまーす!」

「はい。充分に、お召し上がりください」


1口口に含むと、タツキ様の動きが一瞬止まった。
その次の瞬間には、少しトロンとした目つきになり、次第に目の光がなくなって暗く沈んでいく。


「あぁ...美味しい...美味しいよ、優雨」

「勿体なきお言葉、感謝致します」

「ねぇ、優雨、もっと近くにおいでよ」

「有り難き幸せにございます」


今、私のこと狂っていると思っているかしら?
そんな事言うあなたはお子様ですわ。

なぜなら恋とは、



例えるなら
(リンゴみたいに)
(甘くて脆くて)
(毒のあるもの)

 

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