もう逃がさないから
好き
好き
壊したいくらいに
「ハル?」
「...流歌」
「もぅ...学校、遅れちゃうよ?」
朝の水は、明るくて、澄んでいて、好きだ。
でもそれだけ、自分の汚さが見えてしまうようで、少し嫌だ。
幼なじみの流歌が、登校時間だと知らせに来るために浴室に入るのは、もう当たり前になっていた。
なのに、
「(流歌の隣の"当たり前"は、俺じゃない)」
流歌はずっと、真琴のものだった。
ずっとずっと、流歌の隣は真琴で、俺のものじゃなかった。
いつだって隣にいたいと、俺だって強く願っていたのに、それなのに、流歌の隣の"当たり前"は、俺じゃなかった。
バシャッ
「もう上がる。飯食べたら外に出る」
「そんな時間もうないですよーだ!今何時だと思ってるのー?」
「朝の鯖は大事だろ」
「ハルにとってはね」
何を言っても聞かないとわかっていたのか、へらっと笑っている流歌。
その笑顔が、何度自分だけのものになればいいかと思っただろうか。
真琴は俺にとっても大事な幼なじみだ。
でも、流歌は幼なじみ以上に、俺にとっては女だった。
──だめだ、汚いところを、見せるものか
自分の汚さに見て見ぬ振りをして、浴槽から出ようとする。
今日は、おかしかったんだ。
いつもじゃ、あんなにはならないのに。
今日は、おかしかったんだ。
「早くしないと、まこちゃんと先に行っちゃうぞ?」
──その言葉を聞いた瞬間、正常な意識などどこかに飛んでいった。
流歌の両肩を掴み、水の満たされた浴槽に、顔を沈めた。
突然のことで驚いたのか、流歌は一瞬動きが止まるも、すぐに手足をバタバタと動かした。
ぶくぶくと、流歌の息が泡となって浮かんでくる。
そんなことをしている俺の頭は、驚くほど冷静で、流歌を自分のものにすることしか考えていなかった。
2、3分沈めていれば、いつの間にか泡は浮かんでこなくなって、手足も動かなくなっていた。
俺は流歌の身体を浴槽に全て入れ、俺は流歌をきつく抱きしめながら水に沈んだ。
思ったよりも冷たい流歌の身体を抱きながら、一緒にずっと溺れていよう。
静かに微笑んで、俺は意識を手放した。
もう逃がさないから
(お前も、ここで溺れ続けていてくれ)
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