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切望(三成)*



「三成くん、いる?」

「はい。 なまえ様、どうかなさいましたか?」


亥の刻。食事を済まして皆思い思いに過ごしている時間。

おにぎりをのせた皿を片手に部屋の前で立ち止まり声をかけると、この部屋の主のいつもの柔らかい声が聞こえて、襖を開けた。


「夕餉まだだよね? 持ってきたから、よかったら食べてほしいな」


三成くんは自分の生活にあまりにも無頓着だから、書物に耽って食事を摂り忘れることも多々ある。
襖を開けた先で目に入った彼は案の定、読みかけの書物を手にしていた。


今日もいつものように皆で大広間に集まり、夕餉を頂いたのだけれど、そこに三成くんの姿はなかった。
食事を抜くことが多々あるとは言ってもやはり心配になり、きっと書物に熱中しているであろう彼が片手で食べれるようにご飯を握ってきたのだった。


こんなもので悪いけど、と付け足して笑ってみせると三成くんも笑顔を見せていて胸が高鳴る。

本当に綺麗な顔。


「お気遣いありがとうございます。 お手数をお掛けして申し訳ありません」

「ううん。 気にしないで!」

膝をついて皿を置きそのままそこへ腰を下ろした。食べ終わった皿を洗わなきゃいけないけれど、三成くんに任せるわけにいかない(皿をわりかねない)ので食べ終わるまで待つことにしたのだ。


おにぎりに口をつけた三成くんは、予想とは裏腹に書物片手にご飯を食べる、という事はしなかった。
そういえば、以前政宗に怒られていた気がする。


握っただけという簡単なものだけど、三成くんがぱくぱくとおにぎりを頬張ってる姿を見ると持ってきてよかったと、なんだか心があたたかくなった。



◆ ◆ ◆


「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「美味しかったです。 ありがとうございます」
「いやいや、そんな…。 おにぎりだし…」

三成くんが手ぬぐいで手を拭いている間に食べ終えた皿を持ち上げようと手を伸ばす。

「あ、下げるくらいは自分でしますよ」

その刹那、腕をつかまれ、その突然のことに心臓がはねる。


「え、いや、……私やるよ?」

申し訳ないけど、三成くん抜けてるからお皿割りそうで心配だし……。という思いは封じ込めて私がやると強く主張すると、暖かい体温に左手を包み込まれた。

その際、近付いた距離に少し驚いて目線を合わせる。


「これは私がやりますので、ご心配なく。 なまえ様は本当に優しいのですね」


微笑みながら真っ直ぐな言葉を口にする三成くんを目の当たりにし、頭が思考停止状態となってしまう。

て、天使……天使がいる………。

三成くんは無意識に距離を近づけているのだろうから、私の速まる鼓動に気付いてはいない。


「どうかしましたか? 顔、赤いですよ?」


そう。彼は鈍感、なのだ。
だから、今距離を詰めてることや頬に触れていることに意図はなく、この動作に私が期待しているものが込められていないことを知っている。私と同じ想いを抱えているわけではないと分かっている。


それでも、心臓はうるさくて苦しい。


「そんなこと…ないよ。 その……、三成くん、」
「なんでしょうか?」
「あの、なんて言うかさっ!」

き、距離が近すぎやしませんか!?

私が三成くんを意識して顔を赤くしているのにも関わらず、当の本人は全く気づいていなくて、至極不思議といった顔をしている。


「はい?」


視線を逸らし何て言おうか迷っていると、耳をゆっくりとなぞられ、体が反応する。触れられたところからじわじわとあつくなっていく。


この状況……どうすれば………。


「なんですか? おしえてく」
「三成、いつまでも書物に耽ってるんじゃない」

「秀吉さん!」

助かった!!

「なまえ?」

状況を打開する大きな声が響き、ほっとする。自然と三成くんの手から逃れ秀吉さんの元へと向かう。


あのまま三成くんの体温を感じていたら、距離の近さを指摘していたなら、彼は少しでも私を意識してくれたのだろうか、と少しだけ残念な思いも抱えて。


「なまえ、三成のために握ってやったのか?」

「三成くんが広間にいなかったから、それで」

皿に目をやりながら、秀吉さんがよしよしと私の頭をなでる。まるで子供扱いをされているようで少しだけ恥ずかしいけれど、以前一度言ったがその後も撫でられるのでいつも彼の気が済むまで大人しくしている。


手を下げた秀吉さんがなまえ、と私の名前を呼び顔を耳元に近づけてきた。

「邪魔、して悪かったな」
「!」

ぶわぁと体中の体温があがり、咄嗟に顔を隠す。

あの距離の近さじゃ勘違いされても仕方ないけれど、私はともかく三成くんにはそんな気持ちはなかったはずだ。


「違うよ!」

三成くんの名誉のためにも秀吉さんの勘違いを解こうと小声で講義したが、俺には全てわかってるぞというような感じでにっこりと笑みを返された。いやいや、全くの勘違いだから。


「三成、あまりなまえに困らせるなよ?」
「申し訳ありません」

さっきのは三成くんのせいじゃないのにっ。

三成くんに目をやると、いつも通りの笑顔を浮かべていた。
先ほどの距離のせいで私が動揺していたことに対する注意も秀吉さんの言葉の中に込められていたが、それに三成くんは気付かなかったみたいで、安心する。


落ち着かせようと、火照る顔に手のひらでパタパタと風を送った。


「二人共早く寝ろよ」


じゃあ、と片手をあげた秀吉さんの後ろ姿を見送り、これ以上長居する必要もないと思い三成くんに向き直った。


「痛っ…! 三成、くん?」


途端に、無表情の三成くんに両腕を壁に押しつけられ、必然的に背中も壁につく。


「なまえ様は秀吉様のことを好いているのですか?」


白い腕は細いながらも筋肉がついていて私のそれとは全く違い、強い力で押さえつけられ身動きが取れなくなる。やはり三成くんも男の人なんだと暢気に言ってる暇などなく、いつもと違う三成くんの様子に冷や汗が流れた。


「急に、どうしたの…?」
「答えてください」
「っ…」

冷たい声と共に手首をつかむ腕に力を込められ、痛みで僅かに眉をひそめた。三成くんが聞いている"好いている"という問い意味は、恋愛としてだと嫌でも分かってしまった。


「あっ、すみません。 痛いですよね……ふふ。 その顔、そそられます。 それで、問いへの答えを教えてください」


なんて答えたらいいんだろう……。
秀吉さんはすきだけど、それは政宗とか家康さんに対するすきと同じで、恋愛のそれとは違う。


なぜ彼がこんなにも感情的になっているのかが分からなくて、ただ沈黙する。もしかして……と淡い期待を抱くがそれは有り得ないと甘い思考をかき消す。

答えなければ離してもらえなさそうな雰囲気を感じ取って、口を開いた。


「それはもちろん…秀吉さんのことすき」
「そうですか」
「え、待って」

私の言葉を最後まで聞かないまま、三成くんが自身の唇をギリっと噛んだのが見えた。苦しそうな表情に胸が痛み、訳が分からなくなる。

やめて………そんな顔するのは。

私が好いている、のは…………。


「待って!」
「黙ってください」
「んっ…、」

私の言葉を遮るように、抱き寄せられ荒々しく口付けられる。強い力で後頭部を抑えられ逃れることが出来ないまま、三成くんの熱い舌をただ受け入れる。


「ぅあ……、ふ、…ん、」


熱い口付けを続けながら着流しを捲られ三成くんの手が直接、私の足を撫でた。そのまま私の中に指が侵入してくる。


「このまま挿入してもいいんですけど、ね」
「んっ!んん、…ふ、ぁっ!」


襲い来る痛みに抵抗しようと両手で三成くんの腕を掴んだけれど、それも微々たるものでしかなく動きは止まない。その微弱な抵抗を続けているうちに、与えられる熱に従順になっていく身体を恨んだ。


唐突に、抱きしめられる形で後頭部を抑えていた片方の手に両腕をとられ、畳に押し倒された痛みに声がもれた。押し倒されるというより投げ飛ばされたに近い。あまりに乱暴な三成くんを見て、視界がぼやけた。


「そんなに嫌ならこちらにいたしますね」


覆いかぶさる三成くんは感情のない瞳で乾いた笑みを浮かべている。豹変してしまった彼に戸惑いを隠せず、身体が震え出した。

私の横に手をつきながら片手で袴の紐をとき、そこから取り出したモノはまるで凶器のよう。

「やめて」

どうやっても、これからされることから逃れられないのだと分かってしまい、恐怖で張り付いたような喉からはか細い声しか出なかった。


「怖がらないでください。 痛いのは最初だけですよ」

その瞬間、本当に一瞬だけ、三成くんはいつものように優しく笑っていた。そこへほんの僅かな希望をかけて、縋るように懇願する。

「おねが、…三成くん……」

溢れる涙を優しく撫でるような舌遣いで舐め取られる。そして期待も虚しく、太ももを強く掴まれ熱く大きなものに蹂躙された。

「きつい、ですね」
「うっあっっ! 痛、ぃ……みつ、なりく、」
「直によくなりますよ」
「んっ、や…あっあっあぁっ! 」


痛い。身体も心も。
愛する人に抱かれることがこんなにも苦しいのは、彼自身も私を愛してくれていることに気づいてしまったから。

秀吉さんが部屋を訪れた後、明らかにおかしくなった三成くんの様子は、嫉妬からくるものだとしたなら説明がつく。


私に向けられる想いがこんなにも強かったのだと、こんな状況に陥って初めて分かるなんて。こんなに虚しいことはない。


「泣き顔も可愛いですね、貴方は」


彼は勘違いをしている。私が好きな人は誰なのか、彼は気付いていない。でも、どうして。どうしてこんな無理やりに。


愛し合っているのに、交差しない思いと交わる身体。

お互いが苦しいだけの情交。


「は………ぁ、……は、ぁ、」


ひどく虚しい思いを抱えて三成くんを見つめると、瞳を閉じて僅かに眉間にしわを寄せて荒く息を吐いている。強く打ち付けられる腰から逃げようと、上方へと体を引いてみようと試みたけれど、強く掴まれた太ももに力を入れられ、より深く繋がれるだけだった。

最初は痛みを感じていた行為が今ではすっかり快楽に変わり、のまれていく。身体が熱に浮かされて、頭さえもうまく働かなくなってくる。


「あっ! ああっ、…っ」


女の身体はこんな時でも与えられる快楽を求め、情けない声がでてしまう。やめてほしいと思いながら身体はどうしようもなく昇りつめたくて、しかたがなかった。

「ふふ。 ご自由に果ててくださいね。 見ててあげますから」


揺さぶられ蕩ける思考の中に一点だけはっきりした思いはなんとか保ちながら、口を開く。

「私…三成くんに……んっ、ぁっ…、間違って…ほしくない…」

「……仰ってる意味が分かりません」


愛しているから。私も三成くんが好きだから、こんなふうに抱いて欲しくなかった。間違ってほしくない。自分のしたいままにするのは違うことなんだと伝えたかった。

けれど、思いは彼には届かない。


「や、みつな、く…んっもぅ……っあ」


三成くんの着流しの合わせを掴み、必死に伝えようとしたがもう限界だった。こんなこと駄目だと頭では分かってるのに、今はただ三成くんを感じることしか出来ない。


「私もそろそろだしますよ」


畳の方に太ももを押し付けられ、足を大きく開かれる。再奥に何度も熱をぶつけられ目の前がチカチカと明暗して、何も考えられぬまま声をあげた。


熱を秘めた紫の瞳に捉えられて目を逸らせない。だ、め。だめだめ……。もう────……。


「んんっ、あぁぁっ!」

「っ!」

強すぎる快楽に背中が仰け反ったあと、視界が真っ白になった。


◆ ◆ ◆


何かが頭に触れる感覚に徐々に意識を引っ張られ、目を開けた。隣に感じる暖かさに視線を向けると、薄暗い部屋の中、私を見つめる優しい眼差しと目が合う。狂気を孕んだ瞳じゃない、いつもの三成くんの。

「おはようございます」
「………」

いつもの声色に、いつものように返事ができない。
下腹部に痛みを感じてぼんやりとした意識がはっきりとした。あれは夢でなかったのだと、心臓が痛み目頭が熱くなっていく。
不意に近づく唇から逃れるようにくるりと背中を向ける。


「もうやめて」


小さくつぶやいた声は涙で震えてしまう。沈黙する三成くんの視線がわからなくてほんの少し恐怖する。


「……何故でしょうか」

突然かけられた問いに今度は私が沈黙する。何の音も聞こえない空間の中、わずかに衣擦れの音がしたと思ったら、お腹に腕を回され後ろからきつく抱きしめられる。


「どうして、貴方は……、気づいて、くれないんですか」


三成くんは言うのをためらうかのように、一つ一つゆっくりと言葉を発する。


「私はこんなにも………貴方を、愛しているのに」


弱々しく縋るような声に動けなくなる。抱きしめられる腕を振り払うことなんて出来るわけがない。
私だって。私だって───。


「貴方が、誰を好いていようと、それでも」
「……私、は………」

言おうとしてることが分かって三成くんの言葉を遮り、口を開いた。その際に掌を重ね合わせると三成くんの身体がピクッと動いた。


「私は、苦しいよ」
「…………そんなにも秀吉様が好きなんですか?」


まだ伝わらない。ちゃんと言葉で伝えなきゃ。


「違うよ。 私は、三成くんが、」
「えっ……」
「三成くんのことが」
「待ってください」
「!」


唐突にお腹に回されていた腕が口元にあてられ続きを話すことが出来ない。

「そんな、まさか有り得ないです。 そんな、こと」


両手で三成くんの腕を口元から下げようとすると、意外にも力は込められてなく簡単に自由になった。
一人で混乱する三成くんに先ほどの言葉を続ける。


「だから、苦しかったの。 想いが違ったまま、身体を」


身体を……重ねたことが。そう言おうとしたが、恥ずかしくなり、またもや一旦言葉を区切った。すると、言葉の続きを悟ったのか、よりいっそう強い力で抱きしめられ、肩には三成くんの頭が乗せられた。

「……すみません。私は、なまえ様のこととなるとおかしくなってしまうんです。 貴方が他の人と話してるだけで苦しくて、めちゃくちゃにしたくなる」


こんな私でも好きでいてくれますか、と。そう吐き出すように言った三成くんを放っておけなくて、嫉妬深い彼でさえも愛おしいと、そう思ってしまった。私に答えを求める彼の声と腕はわずかに震えていて、その不安を拭いさってあげたくて腕を解いて向き直り正面から抱きついた。


「どんな三成くんでも好きだよ。 どんな想いも、私を愛してくれてるからだって、分かっているから」


顔をあげて目を合わせると三成くんの頬を一筋の雫がつたって、その美しくも儚い彼の姿に目を奪われる。


「愛しています。 壊したいくらいに」


胸元に抱き寄せられ近づく距離と熱っぽく歪んだ言葉にドキリとしながら、首元に落とされた甘い痺れにのまれていった。



(こんな感じでしょうか)
(三成くんっ?)
(私のものだという印です。ふふ。紅い華が咲いたみたいで綺麗ですよ、なまえ様)
(っ……耳元で、ぁ、やめ……)



切望



ただあなただけを求めている。



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