私は少々、特殊と評価してもいいような体質を擁している。

その体質自体を自覚したのは、幼稚園の頃だったか。ああ、なんて不便なんだとその時は唯それだけしか覚えなかった。皆同じ苦しみを味わっているのによく耐えられるものだ、そう思って何の邪気も無く笑みを零し、走り回る友達を尊敬の眼差しで見つめさえした。要は、私は擦れ違う度に特定の人から受けるなんともいえぬ気持ち悪さを、万人に等しく課せられた起伏なのだと見事なまでに勘違いしていたのだ。
けれど、あれ、なんか可笑しくないか? その勘違いに綻びが生まれたのは小学校に上がる直前だった。これは鮮明に脳裏に焼き付いている。切欠が切欠だったからかもしれない。

ともかく私はその時期に、自分と周囲の違和感をうっすらながらも読み取って、差異があることを感じ取って、自分の体質の奇妙さに至ったのだ。思い至った途端に、疎外感と共に、道理で、と納得もしたことが妙に思い出される。
だって、傍にいる人間によって心身ともに悪影響が及ぼされるだなんて、そんな不都合極まりないものを巣食わせて、平然とした顔で雑踏の中を歩けるはずがなかったのだ。それを何の気負いもなくやってのける周りの人々が信じられなかった。現に私にはあまりにもハードルが高すぎる。
誰が私に影響を与えてくるか、接近しなければ微塵も感知できないというのに、人混みに紛れる、そんな日夜確立が変動する当たり外れの激しい博打に私が打って出るわけがなかった。
しかも群衆に身を置いていると、前触れの無い体調不良に対応できない。回避できない。逃げだせない。
高校生になるまで二人三脚、切っても切れない縁の中で培った経験上、多少の融通は利くようになった。だが、それはあくまで多少、の範疇内であるのだ。あまつさえ以前より影響の大小が顕著になり始めている今現在。
その事実を突き付けられて、私は思わず泣きたくなって、代わりに力無く笑ってしまった。いつか克服出来るんじゃないかと、一縷の希望を胸中に育てていた幼き日の自分を一笑に付したのだ。
だって、辟易していた。ああ、私は一生これに付き纏われないといけないのか。なんて素晴らしいハンデを抱え込んでしまったのだろうか。生まれ付きなんて私にはどうしようもないのに!

だが、まあ、ここまで扱き下ろしているが、私はこれを難儀には思うものの、さながら親の仇のようにに疎んで生きてきたわけではない。何故かというと、不測だとはいえ、一度体験してしまえば、同一人物に対しては対策が練られるからだ。具体的な内容を端的に言ってしまえば、その輩に接触しないように避ける、というものだが、これは非常に有効だ。
近づきさえしなければ、効力は発揮されない。だったら、そもそもの前提条件として、近づかなければいいのである。
加えて、私に影響を与える人物は実のところ数が少ない。裏を返せば、大多数は私にとって無害。でもいつ鉢合わせるかは依然謎だからこそ、私は人混みを忌避する。
それでもって、不思議なことに、私に悪影響を与えてくれる連中には、共通点も類似点も一貫性すら無いのだ。性質の悪い。少なくとも当て嵌まる『条件』があったなら、私も初対面での心積もりは出来るのに。そう嘆くこともしばしばだった。

今まで出会った人たちの中でその少数に含まれて、また私の心身が最も危険信号を発するのは、黒崎一護、その人で。
彼に準じる要注意人物が石田雨竜。次いで後は井上織姫が分類されるちょっと危険度度数高めが存在して、段階的に下がっていく寸法で。
列挙した三人を見る限り、同じクラス、というだけで他には関連性すら怪しい。
一時期は、私のその人に対する個人的な印象に所以するものなのかと疑ったこともあったのだが―――それも却下せざるを得なかった。初対面ですら苦痛を催すのに、印象もへったくれもないよなってことで。
これが結局のところ精神的なものなのか、はてさて原因は微塵も心当たりはありはしないのだけど。
もしかしたら、私の知らない何かがあるのかもしれない。さりとて、生憎憶測の域を飛び出ないし、悉く予想を外しているのだから諦めもするというものだ。

私の密かなランキングに不名誉ながら暫定一位に輝く黒崎一護とは、絶対関係を持たない、それが高校入学早々に心に決めた金科玉条。
時と場合に影響の強弱は左右されるといっても、なんだか危険極まりない集団がこの高校には多すぎる。一気にツートップが塗り替えられるだなんて、どれだけ高水準なんだ。悪い意味で。
故に学校にいるときの私は、始終緊張を強いられている。擦れ違ったからといって、苦悶の表情など億尾にも出さない。悟られてはいけない。私はだって周りと違う。
分別のつかなかった子供の頃は、特段口にするほどの事柄じゃないと高を括っていた。成長してからは、寧ろ公にしてはいけないことだと口を噤んだ。
現段階で、私の特異さを認知しているのは、両親くらいのものだ。洸莉にさえ打ち明けていない。

私は、いつまでこの秘密を抱えなくていけないのだろうか。
不便の閾値を大幅に超えた代物とはいえ、嫌ってはいない。嫌ってしまったらそれは自身を否定することに繋がるから。
でも、騙すのは心苦しいのだ。誤魔化しには疲れたのだ。嫌ってはいない。でも、辟易しているのだ。
誰でもいい。もういっそ、信じてもいない絶対神にでも願おうか。
どうか私をこの重苦しい鎖から解き放って。


祈りを天に捧げます
(こういうときだけ神頼みって、我儘過ぎるのかもしれないけど、願わずにいられなかったのです)
(神に見放された者の子孫が救いを求めたとして、真実応えてくれるとは思わないけれど)

 
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