「私を連れ出して、何か相談したいことがあるんじゃないの?」


紅茶を口いっぱいに含んで、ゆっくり嚥下して切り出した。
向かい側のソファで沈黙を守る彼の口が漸く開かれる。
躊躇いがちに微かに震える声。ついでにいえば、顔も赤い。


「………………あそこに彼女がいた」

「うん、いたね」


去り際に確認した。恭の行動の根本的な部分は全部あの娘に支配されてるから、今回突然呼ばれた理由も振り返って見当がついた。
でも、そこを意地悪く追及する。


「それで?」

「………そこまで僕に言わせるの?」


泣きそうに歪んだ顔で、見つめてくる。


「恭はもっと気持ちを表面に出す努力をした方がいいと思うの。ほら、練習練習」


屁理屈だが、理に適ってはいるので、無理矢理突き通す。
強引さに弱い恭ならそれで口を噤んでしまうことを見越しての発言。私ってサドなのかもと内心自分を自分で称賛した。


「ッ……あんな、人を倒してる姿を見られて……絶対嫌われたよ! きっと、あんな奴と仲良くしたくないって思ってるに違いないし!」


先刻までと打って変ってうわーん! と声を挙げて啜り泣き始める恭。
あまりの変貌に、もしもわたし以外の人が目にすれば、幻覚かと目を擦るだろう。

並中に入学して以来、恭はそう簡単に自分の本心を暴露しなくなった。確かに以前もわたし以外の前では、無愛想で無口で目つきは悪かったし、斜に構えたような態度で、の癖して運動神経はやたら良いわ頭の回転も並外れて良かったりと、男からの敵視は並々ならぬものがありはしたけど(ついでに、恭の陰口を叩いた者は、私の活躍によりその後私たちに関わろうしなくなって、呼び出して痛い目合わせようと画策した連中には、丁重に考え直しを薦めてあげた。私って親切。それ以来何故か、穏やかじゃない出会いを果たした彼らは、何処か恐怖の色を滲ませて、遠目で見るだけになった。そんなことされる憶えがないのに)。
風紀委員長就任によって余計、隠蔽行動に拍車がかかったのも事実だけど。

恭の本質は、至って普通に優しくてちょっと他より弱腰な男の子だから。


「思ってないって」

「そんな確証どこにあるのさ!」

「あー……私、道柄さんじゃないからわかんないわ」

「ほら!!」


ソファの上にある、ファンシーなビーズクッションに顔を埋めて肩を震わせる恭に、変わらぬ展開だと、息を漏らす。仕方ないから、最終手段に打って出る。


「でも、道柄さんのこと好きなんでしょ?」

「………そうだけど」

「だったら自信満々に行きなさい。きっと彼女なら貴方の全てを受けいれてくれるって」


半ば自棄が交った説得である。
懇切丁寧に諭したところで、彼のこの癖は直らない。
何度も泣き付かれる身としては、またか、という想いの方が圧倒的に上回るのだ。


「………本当?」


確証を求めるなってば!
さっき、私は道柄さんじゃないって言ったばかりなのに、学習能力のない……そこが可愛くもあるけど。

今のままだと平行線のまま。
どう転がってもいいから一念発起して接触を持たないと、恋愛成るものも成らないから。
でも、そんなことを言っても、恭はおろおろ怖がって自発行動しないと確信できる分だけ、性質がより悪い。

目を赤くした恭がおずおずと顔を上げた。
そこで、締めの一言。


「折角紅茶淹れたのに冷めちゃうじゃない。ちゃっちゃと飲む。ただし、ちゃんと味わって」


私の言葉に無条件にこくりと頭を縦に振って、のろのろと腕を机の上に鎮座しているティーカップに伸ばす。

全く手が焼ける。
人知れない私の苦労を誰か汲み取ってほしいものだ。

まだまだ世話の掛かる彼の恋を応援し始めて早四ヶ月。その間に幾度泣き付かれ、幾度騒ぎたてられ、幾度慰めたことか。些細なことで揺れに揺れ動く彼の薄い硝子の心臓は、毎回この程度のことで、彼を精神的極地にまで追いやってしまう。
ふうっと息を吐いて、カップを覗きこんだ。

結局私が言いたいのは、世間一般体での常識欠如、横暴さ加減では天下一品な恭の実態は、実のところ相当なへたれだったりする、という一点であるのだ。




想いの色を湛えてふわり


(こんな姿私にしか見せない。それを窮屈にも思うけれども、でも私だけ知っていればいいとも思う。だって彼は、ひどく綺麗に笑うんだもの)



 

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