「で、どうしたの。まあ、理由は見当つくけどね」


私たち以外誰もいない風紀委員専用の応接室で、定期的な荷物兼服装検査恒例の悲鳴をBGMに、私は紅茶の準備をしていた。
最近こんな非日常にも慣れてしまった。
悲鳴を聞き流せるって人間としてどうかとも思うよね。うん、気にしない。
今日は、アールグレイにしよう、と如何にも重厚な包装の茶葉を無造作に棚から取り出しながら、ソファに深く身を沈みこませる幼馴染に訊いた。顔を伏せ、何やらどんよりとした空気を醸し出している。降雨数分前みたいな。あれって、どうしてだか判らないけど気分が落ち込むよね。


「………………」


そういえば以前にも類似した状況に追いやられたことがある。
問うても決まって返事が返ってこない。
そんなときは決まって、先刻の様な事態に陥った際。つまり、あの場に彼女がいたとき。
いつものことでもあるので、もう反応が無いのには慣れた。この程度の反応なら、無視できる範疇。
要領良く紅茶をティーカップに注いで、二人分のそれを机に運んだ。

芳醇な香りが鼻孔を擽る。
上品で渋すぎず、かといって安っぽい量産品特有の飲み易さ重視のソフトな味とは位が異なると、雄弁に語るその澄んだ色と、匂い。
流石風紀委員。こんな高級な茶葉を購入しても何の文句も言われない。
実質、要求したのは私なのだが、今のところ学校側から不適切だという知らせは届いていないらしい。万歳権力。教師ひいては校長さえ黙らせ、教育委員会までも手出しできないその権力に幸あれ。

そして、その権力の最頂点に腰を下ろす目の前、何故か憔悴しきった憂いの表情を見せる少年、名を雲雀恭弥。
家が隣で同い年というなんともお決まりなパターンで、自然と一緒につるむと化していた私たちだったが、平穏な日常に転機が訪れたのは、少々昔のお話。

なんと、恭が次代の風紀委員長に名指しで指名されたのだ!

聞かされた時は何の冗談かと思った。

だって、並中の風紀委員といえば、並盛の秩序を守るとかいう大義名分を振り翳して横暴も独断も全部彼らの為にあるんじゃないだろうか、と言われれば即座に納得、頷いてしまえるような連中だったから。
名目実質共にその風紀委員の最高権力者のポストたる委員長は、その権限を全部丸ごと独占することが出来る。
つまり、その座を得た者は、まず間違いなく並盛の命運とその他もろもろをその手にごっそり握れるという事態で。要は一極集中なのだ。

幸いなことに、横暴ではあるけど、向こう側が定めた規則を守れば礼節を持って接してくれるし、権力は振り翳しても、無闇矢鱈に理不尽な真似はしないので、一応の平和は彼らによって守られていると言っても過言ではなかった。
厳つく兇暴な風紀委員のその存在故に、暴走族だなんて輩も蔓延らず、不良さえもこの並盛ではびくびくと、髪を撫でつけ制服を整える。

平凡な町民から、風紀委員長(実質王様)への昇格を遂げた恭の何ともお得な、会社でいえば平社員から一気に社長の座にまで上り詰めたような僥倖に、普通なら歓喜するだろうか?
配下には数十人のリーゼント集団。しかも忠誠心は折り紙つき。
振るえる権力影響力は絶大。誰も逆らえない随一の畏怖の対象。

でも、少なくとも私は悦びはしなかった。
自然付いて回る分不相応な特典。だって、それって特別ってことじゃない。
全てに対しての例外で、それが周辺住民全員から向けられたら、彼が自然体で居ても良いと赦される場所―――唯でさえ孤立していた恭は真実居場所を失くしてしまうじゃないか。
私がそれを直接本人から伝えられてまず真っ先に頭に浮かんだのは、なんで、という疑問だった。

なんで、恭が?

風紀委員長が、卒業間近に誰かを指名して、その人を風紀委員長に仕立てるという世襲制は風の便りで耳にしていた。
その地位は前風紀委員長に気に入られる或いは、認められた者にのみ与えられる名誉ある称号であった。

なのに、なんで恭?

傍目から見たら、他の風紀委員以上に風紀委員を務めている恭。
正に風紀委員長の名に恥じぬカリスマ性。
一片の容赦も見せないで、一滴の慈悲も零さないで。
唯我独尊自己中心的気に入らないものは咬み殺す。

でも、私と恭はずっと一緒で。
だから、知ってた。



さて、一息つきましょうか

(取り乱すと、もういつもの演技さえも儘ならないのだから)






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