常ならば、校門にて合流するはずの生徒たちは、皆一様に門手前で二の足を踏んでいた。

一瞬吹いた突風に送られてきたのかどうか私には知る由もないが、戦々恐々とした雰囲気が、ようやっと黒山の集団を視界に収めたばかりの私に対してさえも、情け容赦なく直撃する。どれだけ必死なんだと取り敢えず問いたい。

そういえば今日はあの日だったな、と呆れ混じりに嘆息した。
カレンダーを、出かけ際に確認し忘れたことが裏目に出たらしい。
敬愛する幼馴染が先に登校したことで気づけばよかった。いつもなら、窓越しから朝の訪れを知らせてくれる彼の存在は、目覚まし時計も兼ねていたりする。勿論、口に出したことは無いが。
身も凍らんばかりの必死の悲鳴を尻目に、大概私にはなんの害もないから、気にするものでもないと最終的に結論を下した。

断続的に、朝の爽快な空めがけて生徒の断末魔が容赦なく響き渡り、回数を重ねられる度に足をじりじり後退させる保身第一の並中生。
おい、そこの今にも逃げ出しそうなへっぴり腰の男子くん。一緒に登校してきた彼女を置いたままにしてると男の名が廃るぞ。挙句の果てに振られちゃうって。
ついでにその斜め前の女子二人組。今更慌てて校則違反のアクセサリーを外しても、遠目だけできっと既にチェックが入ってるだろうから意味ないよ。

なんて、抜き打ち検査の日程を把握している私が云えることでもないけれど。

心中で助言じゃない助言をくれてやって、円を描くように校門を囲む彼らを掻き分けて、前に進み出た。
途端に各々通過しようという勇気と意気込みを発揮した生徒を呼び止めていた、およそ中学生とはどう罷り間違っても見受けられない厳ついリーゼントが一斉に振り返り、まるで謀ったように息ぴったりの一礼をした。


「おはようございます!」


野太い声が、私の繊細な鼓膜を十二分に刺激して、暫し耳鳴りに頭を悩ませた。
音量を下げろと声を大にして主張したい。

シュールな朝の一コマに初めて遭遇したらしい並中生が、ぽかんと顎を外していた。
注目されて、何処と無く居心地が悪くなったところで、凛としてまた聞く人によっては底冷えを誘うような声がする。
私にとっては、子猫が手をちょっと引っ掻いた程度の威力にすらならない。それを思うと軽い軽い。


「おはよう、あかり。今日は早かったね」


僕がいなかったのに、と言外の皮肉。
いつからこの子はこんなに捻くれてしまったのだろうか。
表面上だけとは判っていても、嘆かずにはいられない。


「珍しく目覚めの良い朝だったのよ」

「いつもこの位に来てくれると助かるんだけど」


それは無理な注文ね、と肩を竦ませると、聞えよがしに溜息の音がした。
なによ、何か文句があるっていうの?


「もういいよ。とりあえず僕についてきて」


音源に言われたとおり駆け寄って、先を行く恭の隣に小走りで追いついた。
校門が完全に校舎の向こうに隠れる間際にちらりと後方に目を走らせる。
嗚呼、やっぱり。
ま、十分予想の範囲内だったけどね。



朝も早よからご苦労様です


(欠伸一つ漏らさない風紀委員メンバーに拍手! 私だったら絶対寝てる)


 

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