鏡を見る度あたしは自分が醜い女だと再認識させられるの。
彼女は笑いながらそう言った。
彼女の躰には昔任務で失敗したときの傷が今も残っているらしい。
見たことはない。
躰を重ねるときも、彼女は真っ暗な部屋を求める。
見えなくても、彼女の肌に指を這わせればそれはすぐにわかる。
舐めるように舌を這わせれば、彼女はくすぐったいからと理由をつけてそれを拒む。
「忍に傷はつきものだ。君だけが傷を負っているわけじゃない」
『わかってる。わかってるけど、みんなの傷とあたしの傷は一緒にしちゃいけないの』
任務成功のため仲間を見捨てて、それでも失敗してつけられた傷なんだと彼女は言っていた。
今も傷を見る度見捨てた仲間の顔を思い出すのだろう。
目の前で死んでいった、仲間の顔を。
『ねえテンゾウ?今あなたがあたしを好きでいてくれることはすごく嬉しいの。でもいつかあたしを好きじゃなくなっても、あたしはそれを受け止めるから』
やっぱり彼女は力なく笑うから、反論することも忘れて小さな躰をきつく抱きしめる。
彼女にはいくら好きだと甘い言葉を囁いても意味がない。
『テンゾウ、震えてる?』
もしかして泣いてるの?
よしよし
と焦げ茶の髪を撫でる彼女のか細い手。
どうして彼女はこんなにもか弱く消えてしまいそうなのだろう。
笑うことでしか自分を保てない彼女が、愛おしいけれど憎らしい。
「一生離さない」
『うん、ありがとう』
からからに渇いた返事。
それはさらに目頭を熱くさせた。
君が笑うなら僕は泣こう
(いつか君の心が潤えばいい)
END
2011.12.07.