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『ん…』

沈んでいた意識が急浮上した感覚が気持ち悪い。何度経験してもこの感覚には慣れなくて、起きた後も暫く引き摺るからすぐに瞼を押し上げるのが嫌になるのだ。
少し身じろきすると体の上に何か毛布でもかけられているのだろうか、僅かな重みを感じる。
そういえばバクが話をしていたんだったか…。起きなければ、そう思って無理矢理瞼を押し上げる。
目の前に何か…黒いもの…?
ぼやける視界をどうにかしようと何度も瞬きをすれば段々とはっきりしてきて…、

『っ!』
「あれ、いつもと違う反応じゃねぇか」

それはもう勢いよく起きた。起きたと同時に後退りした私の手は思わずかかっていた毛布を掴んだまま。
まだ向き合う準備…、「いつもと」…?

『お前…、フォーか』
「おう、当たり」
「いい加減にしろ」

私を覗き込んでいたフォーの後ろから本物の神田が頭を掴む。それと同時にフォーが元の姿に戻ると思いっきり飛びついて来た。いや、抱きついてきた。それはもう隙間なんて赦さないといわんばかりに密着して。

「ほーら、お前こういうふうに新藤を抱きしめられるかー?」
「あ゛あ?」
『ちょ、苦しい…』

一体私が寝ている間にどういう話をしていたんだ。
抱きついたまま私の背に移動して挑発するフォーの口を手で塞ぐと、目の前に湯飲みが差し出される。予想だにせず差し出された彼の厚意に思わずお礼の言葉が詰まってしまったが、フォーから手を離して両手で受け取る。甘く香ばしい匂い。昔から飲んでいたウォン特製の煎じ茶だ。この強い匂いからしてきっとさっきまでせっせと作ってくれていたんだろう。飲み終わるとむすっとした彼が机上のお盆に戻してくれた。

「じゃあ新藤も起きたし、修行するか」
『え、いいのか?』
「おう、バクに許可はもらった」

始めるときは呼べって言ってたぜ、と後ろで言うチビは何故か笑いを堪えているように声を漏らしている。
なんなんだ、と軽く睨んでやれば私の首に腕を回したまま神田と私を交互に見てニンマリと笑った。

「あたしはもう一緒に寝る仲だと思ってたんだけどなー?」
「っ!」
『…悪かったな、違くて』
「別に?キレ易いくせに案外奥手だなと思ってよ」

ケタケタと笑いながらバクを呼んでから行くと先に出て行く背中を見送ってから一呼吸。彼を見上げれば可哀相なことに真っ赤になったまま固まっている。
向き合う心の準備、なんてこの姿を見てはどうでもよくなってしまった。

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