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月精の意識が回復をして数日、未だ神田は彼女の眠る以外の姿を目にすることが出来なかった。彼女の意識は翌日から一日に三、四度は回復することはあったけれども、時間は疎らで長く起きていられても数時間は保たなかった。しかもその短い時間に寝たきりで衰えた筋力を回復させるためのリハビリをしている。以前発作が起きた後は表向きを長期任務とし、二ヶ月以上をかけて体を馴らしていたらしいが、今の教団には方舟があるために長期任務はほぼ有り得ない。不審に思われる前に復帰をしなければならないのだが、病み上がりの体力ではそう楽にはいかない。
起きている貴重な時間のほぼ全てをリハビリに費やし、体に走る激痛に耐えては眠るを繰り返していた。

「前回のリハビリは一時間前くらいね。順調に回復傾向にあるわ。今はもう自力で歩けるようにはなったけれども、任務に就くには厳しい状態よ。それと始める前にゆっくりだけれども食事は出来ましたから」
「…そうか」

任務前に様子を見に来たものの、やはり空振りだった。
婦長の後ろを見やれば、彼女はリクライニング式のベッドで多少体を起こし、膝を軽く立てた状態で眠っている。少し顔が窓側を向いていて見辛いが、寝顔には疲労が色濃く刻まれているのが見えた。
ただ、喉の傷を隠していた包帯が外されていて、痕も残っていないことが分かったことは収穫だったと思う。

「お昼過ぎには起きるかもしれないからそのときはまたリハビリをしますけれど、それが終わったら今日は終わりですからね」

何故そのようなことを教えるのだろうと婦長を訝しげに見やれば、今日こそ話が出来るといいわね、と皺を深めて微笑んでいた。

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