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「新藤のイノセンスは近いうちに適合者…いや、宿主である彼女を喰い尽くす」

鉛で構成されたような空気で満たされた司令室に響いた声は、憎悪を纏って溶けていく。
ソファーに腰掛けたバクは己の両膝に肘をついて両手を組んだ。

「新藤のイノセンスは完全な形ではない。一部が欠けた不安定な存在なんだ」

あれは適合者の肉体を破壊し、脳を犯す。そして恐らく、最後には精神を乗っ取り、力を暴走させるのだ。
月精が昔、よく言っていたという。『イノセンスが自らの意思で己の力を振るえる人形(ドール)を欲している』と。
一部が欠落しても存在を保つイノセンスの歪さ故か、今回のような“発作”として過去にも数回彼女に干渉し、力を暴走させてきたというバクの言葉に、コムイは顔を歪めた。

「僕らは新藤が入団した頃から、発作の原因は知っていた。それなのに発作後のダメージを軽減する方法は見つけられても、未だに防ぐ術は一つも見つけられていない」
「ダメージを、軽減させる…?」
「発作の後は暫く昏睡状態に陥り、回復しても数日はぼんやりとしたり眠ったりと動けない。医療班に連絡したとき、婦長辺りにナイフを持たせろと指示されただろう?あのナイフはイノセンス、欠けたものを武器化したんだ」

あれと一緒になると本体も大人しくなるため、恐らく力の均衡がとれるのだろう。
本当は一つの形に戻せたらよいのだが、武器化したものではなく、本体自体が損傷しているために修復も出来ない。もし修復が出来るとしても 本体は彼女の声帯に寄生しているために大手術となる上、術後に確実に声を出せる保証も無い。
またそれ以前に、彼女自身の体力が保たないのだ。
仕方なくコムイ達は欠片に合う形態を研究し、あのナイフへと加工して##NAME2##に持たせていた。

静かな声で淡々と話すよう心がけているのだろうか、影の差すバクの話し方やコムイの表情から二人の悔恨が伝わる。
それが返って現実味を色褪せさせた。

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