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新藤を部屋まで送った後、鍛錬もろくに出来ないまま嘗てこれ程までに悩んだことはあの瞬間以外無い、と言えそうなくらいぐるぐると思考を続けていれば夜になっていて。
夕食のとき「月精―、月精―、」「ウォーカーうるさい」「だってー、」という会話が聞こえてきた。どうやら一応阻止は出来たらしい。
一時的とはいえ今は心の余裕を持たせるにはそれで十分だった。
日中出来なかった鍛錬を闇が支配する森で存分にやり、そろそろ休もうと門の方へと歩みを進めていた。
その先に彼女がいた。
声を掛ければいつもの瞳に大丈夫の言葉とからかいの笑みが返ってきた(よかった、いつもの彼女だ)。相変わらず新藤にはいいようにあしらわれるのに少々腹が立つ。でも昔から変わらないある意味新藤らしさ。真っ直ぐに、俺を見てくれた。時折見せる所謂彼女らしい優しさや気遣いに、俺は惹かれたのだと思う。

もう、答えは出た。

彼女の隣に立って同じように月を見上げる。いや、見る余裕なんて無かった。
緊張、する。
アクマと対峙するときとは比べ物にならない。喉まで出掛かっている言葉が自分自身にプレッシャーを与えた。
どうやらそれが伝わってしまったらしい。新藤はなお空を仰いではいるものの、(付き合いの短い奴には分からないだろうが)不思議そうな顔をしているのが横目で分かる。
気付かれないように深呼吸をする。伝えるなら、今しかない。

「新藤」
『ん?』

イノセンス、“あの人”への気持ち、蓮の花、歪な己に囚われていても、誰かに新藤をとられるのは、嫌だ。

「お前に、ずっと前から思っていたことがある」

俺はきっとどこかで期待していたのだと思う。もしも、なんて考えていなかったから。

「俺はお前が、好きだ」

見開かれた瞳に動揺が映る。

「他の誰かにお前がとられるのは嫌だ。だから、」

そこまで告げて後の言葉を飲み込んでしまった。
いつぶりだろうか、俯いて隠そうとはしているが、泣きそうな彼女の顔。

『…ごめん』

静かに、確かにそう告げられた。

『私も神田のこと、好きだ。でも、ごめん』
「…誰か、いるのか」
『違う!他の誰かなんかなんているものか!』
「なら何で…」
『っ…。私、は…無理なんだ。お前の気持ちに応えてやれない…。だから…っ』

スッと深く礼をすると、背を向けて闇に溶けて行った。
涙と心を残して。

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