親愛なる息子へ

 エバルーの屋敷に潜入したナツたち。
 ナツはバニッシュブラザーズの相手をしている間に、シーナたちはルーシィを追った。
 ニオイを辿ると下水道の入口まで辿り着く――が。

「!」

 シーナは僅かな殺気に気づき、ミアとハッピーを掴んで飛び退く。
 宙返りして後方へ着地すると、下水道の入口前に大きな剣が減り込んでいた。
 大剣を持つのは大柄な男。そしてその隣には三本の剣を装備した男がいた。
 彼等も南の狼の紋章を刻んだ布を纏っていた。

「南の狼! まだいたのか!」

 驚くハッピーだが、シーナとミアはそれほど動揺しなかった。

「我等はキラーブラザーズ。女であろうが、依頼のためにおまえを排除する」

 三本の剣を抜く男は機械的に言うと、シーナは面倒そうに溜息をつく。

「ハッピー、先に行って」
「えっ、でも……!」
「私だけで十分だから」

 ニッと笑って言うシーナは余裕そうだ。
 感じ取ったハッピーは「わかった!」と言って飛ぶ。

「逃がすか!」

 大男が大剣を振り下ろす。
 しかし――

「水弾(ウォーテスブレッド)」

 何かが飛んできて、大剣を破壊した。

「なっ!?」

 驚愕からシーナを見れば、彼女は銃を模した右手を構えていた。
 何をしたかわからない。慎重にしなければならないが、剣を砕かれて落ち着けるほど大男は冷静ではなかった。

「何をした小娘!!」

 突き進む大男。単純だと内心で呟いたシーナは、二本に揃えた指を構え――

「流水刃(ウェイブスライサー)」

 圧縮して刃のように鋭くした水の鞭を指先から放出し、華麗に振るう。
 当たった大男は胸部から腹部にかけて血を流し、仰向けに倒れた。

「おのれ……!! ぐあっ」

 反撃しようとした三刀流の男。だが、一気に振るった水の鞭で剣は砕かれ、鞭の刃に切り刻まれる。
 圧倒的な力を前に倒れる二人の南の狼。あっという間の出来事に、ミアは手を叩く。

「やっぱりかっこいいですね! お母様の失われた魔法(ロスト・マジック)!」

 シーナの魔法の一つ、自然魔法(ネイチャー・マジック)。これは自然現象に干渉するため、失われた魔法の部類に入る。
 圧倒的な力を称賛されたシーナは照れ隠しではにかむ。

「ありがとう。さあ、行こう」
「はい!」

 敵を排除したシーナはミアとともに下水道へ走る。
 下水道はあまり良くない臭いが充満していて気持ち悪くなる。
 顔をしかめて向かうと……。

 ――ゴッ!!

 ――ギャン


「お客様……こんな感じでいかがでしょう? エビ」

 到着する頃にはメイドゴリラ――星霊・処女宮のバルゴを倒したナツと、巨蟹宮のキャンサーでエバルーをハゲに倒したルーシィの姿があった。
 おー、とシーナは感心し、ナツは面白そうに笑う。

「ハデにやったなぁルーシィ。さっすが妖精の尻尾の魔導士だ」
「あい」

 褒め称えるナツ。ルーシィは『日の出』を大事そうに抱えてそっと笑った。

「片付いたようだね」
「! シーナもやったか」

 ナツの言葉に、まぁね、とミアはブイサインを向ける。
 知らないルーシィは首を傾げ、気づいたハッピーが教える。

「あと二人の傭兵がいたんだよ」
「ええっ!? シーナさん、大丈夫でしたか!?」
「うん、ちょろかった」

 ニコリと笑って言うシーナにぽかんとするルーシィ。
 シーナの華麗なる実力を知るのは、もっと後からになるのだった。






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bkm
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