本当の火竜

 夜になるまで食べ続けたナツに付き合っていたシーナは、週刊ソーサラーを読む。
 デボン盗賊一家、壊滅するも民家7軒も壊滅。

「……いくらなんでもやりすぎでしょう」
「そーか? にしても食った食った!!」
「あい」

 海が見える小高い道を歩く二人と二匹。
 ふと、ハッピーは海に浮かぶ大きな船を見つけた。

「そいや火竜が船上パーティーやるって。あの船かなぁ」
「うぷ…気持ちワリ…」
「想像しただけで酔うのやめようよ……」
「乗り物酔いもここまで来ると大変ですね……」

 ハッピーとミアが同情の目を目を向ける。
 シーナは苦笑して前屈みになるナツの頭を撫でた。
 その時、少し離れたところにいる二人の女の子の話声が聞こえた。

「見て見て〜!! あの船よ、火竜様の船〜。あ〜ん、私もパーティー行きたかったぁ」
「火竜?」
「知らないの? 今この街に来てるすごい魔導士なのよ。あの有名な妖精の尻尾の魔導士なんだって」

 一人の説明を聞いたナツとハッピーは目を見開く。

「妖精の尻尾?」

 もう一度船を見ると、また酔いそうになる。
 それでも手摺に寄りかかって、また呟く。

「行く?」
「……おぉ」

 ナツの思っていることがわかったシーナが訊ねると、ナツは頷く。
 目を配らせるとハッピーは能力(アビリティ)系の魔法、翼(エーラ)を背中に生やす。
 ミアも同じように翼を出すとシーナを持ち上げ、ナツの服を掴んだハッピーと揃って飛ぶ。
 人目につくだろうが、二人は気にしない。
 やっと船の真上まで来た。シーナはフードを目深に被り、ナツと一緒に飛び降りる。

 ――バキッ

 何層もの船の天井を突き破って、豪奢な船内に着地した。

「ひ…昼間のガキ!!?」
「ナツ!!? シーナさん!!?」

 そこにいたのは火竜と名乗った男と、ドレスアップしたルーシィ。
 降りる前に甲板で女の子たちがパーティーを楽しんでいたところを見て、やはりと思った。
 奴隷船だと。

「おぷ…、駄目だ、やっぱ無理」
「えーーーっ!!? かっこわるーー!!!」

 やはり船ということにナツは酔う。
 仕方ないことに、シーナは溜息をついて困惑する火竜たちを見る。

「ルーシィ、何してるの?」
「ハッピー!!? 騙されたのよ!!! 妖精の尻尾に入れてくれるって…。それで…あたし……」

 ルーシィの言葉に、二人は目を鋭くする。

「てか…ハッピーとミア、羽なんてあったけ?」
「細かい話は後回しっぽいね。逃げよ」

 ハッピーは尻尾でルーシィを持ち上げる。

「ミア、ルーシィをお願い」
「はい、お母様」

 呼びかけるとミアはハッピーについていく。

「逃がすかぁっ!!!!」

 火竜が手を翳して大きな火を放つ。
 ハッピーが軽々と避けると、火竜は舌打ち。

「ちっ、あの女を逃がすなっ!!! 評議員どもに通報されたらやっかいだ!!!」
「はいっ!!!」

 銃を構えて甲板に出る二人の男。
 視界の端に入ったミアは翼を硬質化し――

輝きの雨(レーディアンス・レイン)!!!

「「ぎゃあぁっ!!」」


 片翼を振るえば、光る羽根が弾丸のように飛ぶ。
 降り注ぐ硬質な羽根の雨に男たちは苦戦するが、銃口を向けて撃つ。
 それでも大丈夫だと知っているシーナは、ナツと一緒に火竜を睨む。

「フェア…リィ……テイル……おま…え…が…」

 息絶え絶えでナツが血走った目で睨む。
 次の瞬間、大波の音とともに船が大きく揺れた。

「うわっと……」
「っ……シーナ!!」

 シーナは平気だったが、ナツは必死に腕を伸ばして抱えて守ろうとする。
 ドゴォン、という盛大な響きを立てると、揺れが止まった。

「止まった…。揺れが…止まった」

 ようやく呼吸が落ち着いてきたナツはシーナの手を借りて立ち上がった。






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bkm
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