優
パリッとした真新しい制服に袖を通す。
今日からわたしも大海原中の生徒として生活することになった。話によれば、隣に住む綱海さんも同じ中学校だとか…
昨日の綱海さんの表情が頭から離れない。
あの後、わたしは綱海さんに家まで送ってもらった。彼と一言も話さないまま、家までの道を歩いた。
(わたし、何か悪いことでも言ったかな?)
考えみるものの、答えなんかさっぱり出てこない。しばらくすると、お母さんの大きな声が部屋の中に響いた。
「えっ?」
気が付けば、体が勝手に動いていた。
わたしは急いで全てのことを済ませ、外に出た。
「よぉ!」
右手を上げて挨拶をしてきたのは綱海さん。
そばに駆け寄ると彼は頭をポンポンと叩いてきた。
「綱海さん!どうしたんですか?」
「いや、お前と一緒に学校行こうと思ってな」
「え、あ…」
「嫌だったか?」
「そ、そんなとこありませんよ!
んじゃあ、行こうぜ!と、綱海さんはわたしの腕を引き、歩きだした。
男の人ということもあって、歩幅が全然違う。
歩くスピードだって速くて、わたしはついていくのに精一杯でだんだん疲れてきた。
「おい、大丈夫か?」
わたしの歩くスピードが落ちてきたのに気付いたのか、綱海さんは一旦立ち止まり、こっちを向いた。
「あ、はい。大丈夫です」
「…そっか!んじゃ、行くぞ」
その言葉を合図にまた歩きだした。
(あ…れ?)
歩きだした時に気付いた。さっきと歩くスピードが少し遅くなった気がする。わたしにあったスピード。
もしかして…
と、自分の考えを押し殺した。
そんなとこ思ってはいけない。
自分の気持ちに鍵をかけたまま、わたしは歩き続けた。
王子の優しさ
(もしかして、気使わせたかな…?)