微笑み
『早く早く!』
『海穂ちゃん、ちょっと待ってよ』
これは?――――
『ほら!ここから見る海はすっごくきれいだよ!』
『本当だ…すっごくきれいだ』
『ねえ!ここをわたし達の秘密の場所にしない?』
『うん!ここならみんなに絶対わかんないしな!』
『みんなには絶対に秘密だよ!』
『もちろんだ!じゃあ、指切りな!』
『うん!ゆびきーりげんまん』
『うそついたらはりせんぼんのーます』
『『ゆびきった!!』』
…そうだ…小さい時のわたし…
よく近所のお兄ちゃんと遊んでもらったっけ?
あれ?
そういえば、そのお兄ちゃんはどうしたんだっけ?
何で――――
――――覚えてないんだろ?――――
「…い…おい、起きろ!」
ゆさゆさと肩を揺らされ、ゆっくりと目を開いた。顔を見上げると、そこにはついさっき知り合ったばかりの綱海さんの姿。
いつの間にか彼は会った時と同じTシャツを着ていた。
「ん…綱海さん…!」
びっくりして、目を見開いた。
辺りはもう真っ暗で、海は黒に染まっていた。
「もうこんな時間っ!?綱海さん、すみません!」
「ああ、いいって!それに、黒い海も見れたしな!」
昼間と姿を変えてしまった夜の海。
海はただひたすら黒が続いてるだけで、正直、怖くて仕方なかった。
「何だか怖いです…」
「んー、確かにそうかもな!」
「そうかもなって…綱海さんが言うと全然怖そうに聞こえないです。」
「ハハッ!そっか、まぁ実際、そんなに怖くねぇしな。どんな海でも、俺は好きだからよ」
どんな海でも好き。
その一言で、綱海さんが心が広い人なんだと実感した。
「何だか綱海さんって、海みたいな人です。」
そう言うと、綱海さんは「そうか…」と呟き、暗くてよく見えなかったけど、わたしには悲しそうに、微笑んでいたように見えた。
王子の微笑
(どうしてそんな悲しそうに笑うの?)