想い出









足がつかない。


息が出来ない!


わたしは、まだ成長の途中にある小さな手足をただがむしゃらに動かし、海の中にいた。
と言うよりも、「溺れている」と言った表現の方がいいのがもしれない。
何回も来たことのある海。
少しでも上手く泳げるようになりたいと言う思いが先走って、自分の身長よりも深い所に来てしまったのが間違いだった。
運悪く、両親は海の家でのんびりと過ごしていて、わたしのことなんかに気が付く気配がない。

大声を出せば良いのだが、口の中に流れてくる海水のせいで、うまく声を出すことができない。


(もう…ダメ…)


フッと、体の力が抜けて、ゆっくりと、海に沈んでいく。


「…い…!おい!」


残り少ない体力で、閉じていた目を開ける。
海水のせいでうまく視界があけないが、はっきりと見えたのが、ピンクの髪の毛と健康そうな小麦色の肌。


「おい!しっかりしろ!もうすぐ陸に着くから!」


ぼやけている視界に徐々に広がっていく、砂の黄色。
助かったんだ…

それだけを思うと、わたしは意識を失った。


最後に覚えているのは、あの男の子が何かを叫んでいたってこと。


ただそれだけ。







******







目を覚ましたわたしを待っていたのは、涙ぐんだ両親の表情。
そして、母の苦しい抱擁。

そんな両親に、あの助けてくれた男の子のことを聞いた。
でも、わかったことは数少ない。

ただわたしが唯一わかったことは、その子の名前は『 』ってこと。







人魚の想いで


(あの子は誰なんだろう…?)





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