雫ちゃんが無事猫を飼いはじめて二週間、どうやら随分と頭が良いのか聡明な猫は雫ちゃんの言うことを全て大人しくすぐ覚えるらしい、実に素晴らしい。

そんな俺は目の前でニャオン、と鳴く黒い毛玉を見ながら、久しぶりに頭を抱えたくなった。


「この毛玉が…!!」
「フニ゙ャア!」


うわこいつ一丁前に威嚇なんかしやがる、主人が居ない間、テリトリーを守るため、俺の膝に軽く爪をたて置く黒い毛玉こと、和成二号が憎たらしい。

そんな従順なことするまでもなく俺は雫ちゃんを漁ることはないし、大人しく待つつもりだし、というかこの毛玉が俺を完全に敵扱いするのが腹立つ。俺は雫ちゃんの彼氏なのに、彼氏なのに、彼氏なのに!!


「…お前さあ、空気読んで部屋からでていくとかねーの?主人の彼氏だよ、俺」
「にゃあ?」
「はあ?みたいに言ってんじゃねぇ!!つーか俺の言葉わかってんのか!?凄いなお前!!」
「フッ」
「鼻で笑うな!」


は?何?こいつ天才猫かなんかなの?ご主人様に害をきたす者は排除にゃー!ってか?素晴らしく見上げたナイト様だ、だがしかし俺は雫ちゃんに害をきたさないというか俺がナイト様だ!!
本当、このニャン公どうしてくれようかと睨み返した時、ガチャリと扉が開いた。


「ごめんね、お湯沸くの時間かかっちゃって…」
「にゃあ!」
「わっ、と!ちょ、ちょっと待ってね!」


扉が開ききらずに俺の膝から飛び出した毛玉が雫ちゃんの足首にすりよる。羨ましい。じゃなくて自分に素直な奴だ、羨ましい。

お盆に乗せられた紅茶をテーブルに置いて脛にまとわりついている毛玉を抱き抱え俺の横に座る。
うりうりと首を撫でる雫ちゃんをガン見していたら不意に雫ちゃんが顔をあげる。どきりとした。


「和成、いいこにしてた?」
「えっ?あ、あぁ、うん、猫ね猫、まあ良い子にしてたとはいいがた…良い子にシテマシタ」


うるせえ黙ってろと言いたげに目と爪を光らせる毛玉に仕方なく嘘の供述をする。勿論裁判官である雫ちゃんは嘘を見破れない、あぁ、神よ…

…ていうか、ホント、これ結構クる。和成二号と名付けたものの、ややこしいから皆は結局“二号”(ここらへんも本家らしい)と呼ぶ中、雫ちゃんだけは“和成”と呼んだ。
これが理解してても結構クる。

悔しい事に、雫ちゃんは俺を下の名前で呼ばない。そして毛玉を甘ったるい声で呼ぶ。
健全な男子高校生たるもの、こんな些細な事でも簡単にテンションが上がってしまうぐらい単純なのだ。


「良い子にしててよかったよかった」
「……」


あ、だめだなんかムラッてきた、久しぶりに雫ちゃんの部屋に来たのに猫にばっか構うのはジェラシーを感じる。
本能の赴くままに指先を絡めた。


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