もしかしたらあたしはとんでもない事をやらかしたんじゃないかと非常に焦りがでてきた。 「へぇー、そんな人がいたんだね、ふーん…へぇー…」 「い、いや、花宮にもいい所がない事もないかななんて…」 「ふーん」 だめだ完全にぶちってしてる、半年ほどの付き合いになるが、キレた、という怒った雫をみるのは文化祭以来だ…いや文化祭でもこんなに怒ってなかった、キレた、のはじめてかも知れない。 …な、なんというか威圧感が、半端じゃない。 「…鶴ちゃん、あのね、私は極度に他人の恋路に口出しとかどうかと思うんだよね」 「…う、うん」 「ごめん鶴ちゃん、…な、なんで好きになったの?」 「…あたしが一番聞きたい」 そうだ、なんであたしはこんなに花宮真が好きなんだろう、意味がわからない、性格悪いし嫌味ったらしいしというか外道だし外道。 ふと、目の前をみたらココアをちびちび飲む雫が映る。 …ちょっとまて、もしかしなくても雫は彼氏持ちで何倍もあたしより恋愛マスターなんだ、凄い雫やばい雫!! ごくり、と溜まった生唾を飲んだ。 「…あのさ、雫」 「なに?」 「し、雫は、かか、高尾、和成さんの、どこらへんが、す、好き、なの?」 「…」 コップから口をはなし、ことりと机に置いた雫がにこりと笑う。 「笑顔」 「歪みないな!!」 「あと性格と腕と声」 「おおう…」 な、なんか雫が凄い、神々しさを感じるレベルで上のお方だ…これが現代彼氏持ち女子高生の風格。 「でもね、一番好きな所とか答えらんないよ、だって高尾君が好きだもん」 ぼすん、と雫の台詞が心の中心に落ちてくる。 そうなんだよなぁ、情けないけど、馬鹿みたいなんだけど、理由はないんだあたしに。 「…なんていうか」 「うん」 「嫌な所ひっくるめて…」 「うんう…」 「好きなんだと、思、う…」 そう震え声に伝えれば、雫の相槌がぴたりと無くなる。 なんだか息苦しくなり、なにかやらかしたのかと恐々と雫をみれば、これ以上となく目を輝かせた雫が生き生きと携帯を弄っていた。 「…なにして」 「美亜ちゃんに鶴が可愛いって送ってた」 「なんで!!」 「鶴ちゃん可愛い…花なんとか君には勿体無い…」 「あれなんか雫可笑しくない!?」 「可笑しくない!」 なんだか雫のキャラがぶれてきた上になんかとてつもなく恥ずかしい、なんだこれ顔から火が出そういや本気ででそう!! 「鶴ちゃんまだ花なんとか君が好きなんだよね…」 「うん花宮ね」 「なんとか君は幸せ者なのに…解せないね、嘘だろなんていうなんて解体を進めたいね…」 「雫怖い」 なんでそんな悲しそうな顔で怖い事いってるんだこの子は…というかもう名前覚える気ゼロじゃないか、あからさますぎるだろう。 また俯くあたしとは裏腹に、ごくごくとココアを飲み干した雫がにこりと笑った。 「まだ好きなんだよね」 「…うん」 「心の底から応援してる!」 「……うん」 「とりあえずなんとか君にブレーンバスターをする所からはじめようか!!」 「違う雫!」 素晴らしく綺麗で温かい笑顔に、じんわりじんわりと温まって、また涙が出そうになる。 諦めるのは無理で、叶うわけなんかないのに、また懲りず恋して愛情だけが募っていく。だから多分近い内にまたあたしは花宮にご飯を作ろうと思う。 会計を済まし、店を出て近場の雑貨屋へ足を向ける。こうして親友とのんびりするのはとてつもなく幸せだ。 「…あのさ」 「なに?」 雑貨屋のドアノブに手をかけた時、少し上擦った声が後ろから聞こえる。 振り向けば、少し頬を紅潮させた雫が服の裾をつまんでいた。 「い、今更なんだけど、鶴乃ちゃん、に呼び方かえたらだめ?」 ぶわっとつられてあたしまで赤くなる、いいよ、と蚊の鳴くような声で呟いてドアノブを捻った。 あたしは幸せだ。 心の平和 (愛情を確実に静かに知る) |