告ってしまった、というより、告えた。の方が強かった。 少しヒールのあるロングブーツでしゃがみこんだから少し足が痛い。ついでに泣いてるから息苦しい。 「…泣いてんのか」 「…ん」 「なんで泣いてんだよ」 「ごめん」 ずず、と鼻水を啜る。色んな事が沸々溢れだしてきて、辛さも怒りも悲しみも不快感よりもなによりも、ただただ花宮が好きだった。 あたしを連れ出した時も、夜帰ると怒る時も、迎いに来てくれた時も、あたしの家にご飯せびりに来た時も、全部大好きだ。 「花宮」 「………なんだよ」 「好きだよ、花宮が」 「……さっき聞いた」 愛しさも同じぐらい溢れる涙も止まらない、じわじわと内側から熱くなっていくのを感じて体が震える。 しゃがり込むあたしの左手をとり無理矢理立たせられる。そのまま今度は花宮がしゃがみ、ロングブーツのファスナーを両方下げて泣きじゃくるあたしの足から脱ぎとった。 そのまま左手を引っ張り、花宮の殺風景なリビングのソファーのぼふん、と座らされた。結構投げる様に座らされたのにどこも痛くはない。 熱い、熱い、喉も目で触れられた手も熱い、胸も熱い、熱くて死にそうになる。 「熱い…」 「お前飯は」 「食べてない、花宮、熱い」 「風呂入ってこい」 あたしの質問なんか無視して、三角座りのまま抱える様にしてお風呂場に繋がる洗面所連れていかれ、部屋に入るや否や、いつ用意したのか服を置いてでていった。 微かに残った理性で服を脱いで言われた通りお風呂に入る。まだ熱いお湯に熱い身体のまま入ると熱くて熱くて痛い。火傷するんじゃないかなんて馬鹿みたいな事を考えた。 人間の、日本人の身体は変わってるのかも知れない、お風呂に入ってしばらくしたら頭は正常に回る様になって、お湯の温かさしか残っていなかった。 その時はまだぼんやりしていたのか、いつの間にか髪も身体も洗っていてなんか恥ずかしい。このまま入り続けるわけにもいかず、お風呂場からでた洗面所に籠には花宮の服とタオルが置かれていた。 「…告白してきた子に服貸す?」 どうせ断る癖に、お風呂に入ってさっぱりしたのは身体だけじゃないのか自分の自虐ネタですら楽しく笑える。ダークパープルのスウェットに袖を通し、少しだけ緊張してリビングへのドアを開けた。 「…花宮、あがった」 「おせえよ、できてるからさっさと食え」 「え…っと、…何を?」 「飯食ってないんだろ」 一人暮らしにしては広いテーブルに、一人分の食事が置かれた。 和食の鏡の様な品、白米、お揚げが入ったお味噌汁、梅干し、鮭、肉じゃが、どれあたしが好きな物が湯気を出してる。 「…いただきます」 お腹も空いていたので口に運べば悔しくなるぐらい美味しい。もう自分で作れ馬鹿、めちゃくちゃ美味しい。 「美味しい」 「当然だろバァカ」 「うん」 一口、また一口を食べて噛み締めて、味が広がって、ゆっくりと暖かくなる。 「…そんな顔するなら、告うな」 「ごめん、泣いてないから許して」 「…お前が悪い」 「うん」 お椀に口をつけて熱いお味噌汁を流し込む、ぼすん、と頭に手が置かれた。 「先に俺から離れたのもお前だ」 「うん」 「だから俺にはわからない」 「うん」 「結城」 「うん」 いつの間にかお箸を置いて膝に手を乗せていた。 そうだった、先に花宮から逃げていったのはあたしだった。花宮はいつもあたしに逃げ道を与えていた、渡らなかったのはあたしだ。 「はなれて気づく事ってあったんだよ」 「ふはっ、そんなもん甘ったれた餓鬼の台詞だ」 「うん、あたしはいつでも子供だ」 頭上で舌打ちが聞こえ、手一つ分あった頭部の重みが消えた。 「花宮」 「…なんだよ」 「あたしが何かで世界一番になったらそれは凄い事で努力が大嫌いな花宮も認めざる終えないと思うんだ」 「…」 「あたしが世界一番になったらまた好きだっていうよ、あ、その時花宮に彼女と奥さんがいなかったらね」 消したくないし消えない心を無理矢理無くす事はしなくていい。あたしの大切は物は捨てられるまで大事に持っておこう。 「…何年かかるか見ものだな」 「ははっ、だね、花宮とられない様に早く一番にならなくちゃ」 「おい鶴乃、俺がいついいえっていったんだよ」 「…………えっ、」 あたしが花宮の方へ向くまでに、花宮はあたしの頭が動かない様に固定していた。 「…今日は、飯食ったら帰れ、明日また言う」 「え、あ、う……て、てれるなら、言うなよ!!」 「生意気いってんじゃねぇよ、じゃあ、いいえ」 「は?ばっ、花宮の阿呆!!」 頭を固定されたままで表情すら見えやしない、結局そのままあたしはご飯を食べて、絶対後ろを向くなと釘を刺され家まで送られた。ただし最後みた真っ赤な耳は忘れない。 「…逆に、明日どうしよう」 つくづく、あたしはとんでもない男を好きになってしまった。だけど火照った体とにやける口元は隠せない。自室に入って壁にずりずりと凭れかかった。 「好きだなぁ」 じわり、と恋情がまた溢れた。 三色菫 (焦がれて、愛はあつくなる。) |