あれから約一年。
無事に受験も受かり、弓道もかなりの成績も収め、現在独り暮らし中。

…なのに


「…自分の家帰りなよ花宮」
「歳上に敬語つかえよ餓鬼」
「帰ってはどうでしょう花宮サン」
「ふはっ、断る」
「なんなんだよもう」


溜め息を吐いて鍋と向き合う、ちゃんと二人分作るのももう慣れた。
彼、花宮は定期的にあたしの家に入り浸る。おかげであたしの部屋の一つがあいつ専用の部屋として埋まってしまった。
別に嫌ではないし、むしろ好きな人と一つ屋根の上で万々歳…と、まではいかないがあたしはこの間柄を嫌ってはいない。


「結城」
「なに」
「お前どうするんだよ」
「なにが」
「言われてるんだろ」
「…なにが」
「親に」


ビーフシチューをかき混ぜながら、目もあわせずに会話を続ける。
なんでこいつはあたしの家庭事情を知り尽くしてんだか。


「関係無い、学力も上々、由緒正しき弓道だって十分、他になにを言われる意味があるの」
「優秀なお嬢様なこった」


からかう様な言い方にイラつきながら火を止める、これだから花宮には将来も家庭事情も知られたくない。

こうして今日はあたしは何も言い出せないまま、時間を食っていく。いっその事このビーフシチューみたいにどろどろに溶けてしまいたい。


「ご飯できたよ」
「後で食う」
「…今食べなさいよ」
「俺の自由だろ」


花宮は我が儘だ、いつも通り性悪で恐ろしい事やってのけて自分勝手に過ごしていく。


「花宮」


あたしは何故だかこの男が、花宮真が好きだった、自由に生きれる事憧れに近い恋情を抱いていた。


「もしあたしがあんたの事を好きだったらどうする?」


だからこそ、壊そう。
ここであたしが抱いた彼への愛情を壊してしまおう。
本当に、もう子供じゃないのだ。叶わない恋愛に執着なんてできない、思いは伝えてしまった方が何倍も楽だ。
年頃の娘は難しいなんて皆いうが、大した事はない、子供か大人か、どっちなのかわからずに境目をただただ浮遊しているだけの事。


「…冗談だろ」


バキリ、と皹が入る。


「さぁ」


思えば、長い片思いでした。ながったらしくめんどくさい夢見がちな恋でした。


「くだらねぇな」
「ね、早く食べてでていってね」
「いや、用事思い出したから帰る、じゃあな」
「またね」


一秒が長く、一分が長く、閉まる扉が遅く遅く動く。バタンという音でさえ耳障りに思えた。

あたしの世界は、狭かった。それを広げてくれてありがとう、世界は綺麗に色づいた。
そして、さようなら。


「……好きだな」


自分勝手に壊した恋心よ、臆病物だと笑ってくれて構わない。
だから、お願いだからあたしから綺麗さっぱり消えてくれ。


物思いにふける
(あたしを思って下さいなんて言わずに)