そもそも、ハロウィンだかなんだか知らないが、我が国日本には全く関係と私は思う。

同じ外国イベントとして、クリスマスやバレンタインはまだ同意できる。ただハロウィンは本当になんであるんだ、少なくとも日本で騒ぐ様な事じゃない。
それでも日本人は喜んでハロウィンにのっかる、どこの店でも橙色と紫色に店内を染め、白いお化けとカボチャの笑顔で飾り付けられる。周りの女子達はきゃいきゃいと騒ぎ歓喜していた。

私も勿論ハロウィンの存在を知っている、友人からタダ菓子を貰えるのは嬉々としていた。私の頭の中はお菓子、きらびやかな仮装に一切興味はなかった。
つまり、私の中でハロウィンは「おかしが貰えるラッキーデー」であり、日にちも確か下旬というあやふやな意識しかないのだ。


「今日がハロウィンなんだ」
「アンタってやつぁ…」


くぅ、と唸る友人を尻目につい先程頂いたポッキーを口に含む、友人がダンッと机を叩いた。


「なんで星子は女子力っていうの?イベント事に感心無さすぎ」
「私の中で十月は月見よ月見」
「かぁー!!高尾君が嘆くわよ!この芋女!!」
「ざーんねん、私の彼氏はクリスマスもバレンタインも誕生日も部活づけでーす」
「…星子可哀想…」


いきなり怒ったり哀れんだり感情豊かなやつだ全く、ポッキーの二袋目を開けながらふと私の彼氏、高尾和成を思い出した。
一年生にして強豪バスケ部レギュラーの高尾に休みなんてほとんどなく、勿論今日も夜までみっちりバスケづけ、毎度イベント事が潰れる度に高尾は申し訳なさそうに謝罪するが、淡白な私が一度もしょげた事なんてなかった。

ハロウィン、に至ってはお菓子を奪いあい仮装をするだけの対した事ないイベント、勿論私はお菓子さえいただればそれでいい。

勿論、それでいい、のだが。


「ねーハロウィンの合言葉ってなんだっけ」
「それも知らないの!?なんなのアンタ!!とりっくおあとりーとよ、とりっくおあとりーと!」
「拙い英語、知ってたけど」
「ほっとけ馬鹿馬鹿!!知ってたのかよ!!」


訳は「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」全く、一体誰がこんな遊びを考えたんだろう。

きっとハロウィンを考えたやつは死ぬほど甘いお菓子が欲しかったんだ。お菓子に埋もれて死にたくなるぐらいに、は言い過ぎだけど、とにかくお菓子が欲しかったんだろう。
仮装も合言葉もただの後付け、甘いお菓子を貰うための。


「よお星子」
「よっ」
「星子ちゃんが一緒に帰ろうなんて、和成うっれしー」


けらけら笑いながら手を挙げる高尾にひらりと手を降る、カーディガンに手を突っ込んだままゆるゆる立ち上がって、寒さに震えくしゃみを一つした。


「あー、もう寒いんだから中で待ってろっていったじゃん、大丈夫?」
「図書室はこの時間開いてないの、至る部屋が部活で使われてるって、帰宅部は大人しくしてろって感じなんだもん」
「ん、そっか、ごめんごめん」


うりゃ、という掛け声とともに暖かい肌が学ランを挟んでが頬に触れる、じわりじわりと熱を持ち上がる体温に目を細めていたら左手でがしがしと頭を撫でられた。


「つめてー」
「ぐしゃぐしゃになるわ」
「じゃ、帰ろっか」


ひきなり人を暖めたかと思えば髪をぐしゃぐしゃにするし、手櫛で整えたかと思えば指を絡めて手を繋ぐ、全く、自分勝手に振り回してくれるものだ。

明日でもう十一月、芯から冷やしてくれる北風に目を細め繋がれた手に力を込める、あーあ、マフラーでもしておけば良かったよ、全く。


「ねー高尾」
「なに?」
「今日は何の日でしょーかっ?」
「んー?」


一、二、三、四、たっぷり四秒間悩んで高尾が「あ」と声を漏らした。


「ハロウィンか」
「せいかーい、私の友達がすっごい騒いでたんだよね」
「星子はお菓子貰ったの?」
「まあね!」
「まじで?俺にもくれよ」
「無いです!!」
「もうかよ!!」


隣で騒ぐ高尾に吹き出しながら手を放して二歩前に立つ、何事かと少し眉を潜める高尾の目の前に人差し指をさした。
高尾は相変わらず間抜け面で首を傾げている。


「高尾」
「どったん星子…」
「トリック、アンド、トリート?」


ニヤリ、と笑って中指も出してピースサイン。ぱちりぱちりと瞬きをして高尾は遂に吹き出した。ふはは、面食らっただろう、ざまあみろ。


「何、それ?誰の入れ知恵だよ」
「オリジナルっすね」
「へえー、星子ちゃんがそんな事いうなんてねえ?」
「洒落てるでしょ?」
「見事に不意をつかれましたー」


愛しい奴め、と頬をなぞる高尾の指先は未だにに熱くて熱くて仕方ない。こつり、と額の違和感に目を開ければ至近距離に高尾の顔があり、思わず息を飲み込んだ。
今度は指先だけじゃない、指先から額からまた熱が上がって広がっていく、ああ、熱い、今度はじわじわなんて上がらない、一気に爆発するみたいに熱くなる。


「俺、お菓子なんてないんだけど、二回も悪戯させられんの?」
「ここは俺がお菓子だ!とかいうんじゃないの?」
「あ、じゃあそれでいいや」
「んっ」


甘い、もしかして高尾お菓子食べたんじゃないの?もしくは緑間のお汁粉飲んだ?まあいいや、ついでに悪戯もまた後でいいや。

イベント事にあやかるのも楽しいかも知れない。


企画“お祭り”様に提出