「うりゃーほれ、うりうりー、きもちーかー?二号ー!」
「わんっ!!」


ふわふわの毛を巻き込むようにして腹を撫でる。完全に服従しきった二号はみていて非常に愉快だ。
二号と私の関係は奇妙だと、少し前に火神が言っていた。「なんつーか…信頼関係?築いてるみたいな…うわやめろ!!」と他愛のない会話をしていた時すら懐かしく感じた。


「二号よ二号、お前の主人はどこにいるのかねー…」
「…ふぅん?」
「いや、いいんだよ、ほれ、うりゃりゃ!!」


ごまかすように腹を撫でくり回して空を見上げる、夕焼けで辺りが赤く染まり綺麗で思わず目を細めた。


「二号、お前は可愛いねぇ…」
「わふんっ!」
「おお?自覚済みかぁー?愛い奴めー!!」
「くぅん!」
「…今日は寒いねぇ、二号」


寒いのは嫌いだ、だから私は冬、コートを着て手袋をはめてマフラーをして外を歩く、雪は好きだけど積もったら少し困る。友人からは「困ったお年頃」なんて可愛らしく表現されたものだけど、そんな事はない。
別に困ったお年頃というわけじゃない、ただ単に寒いのが嫌いなだけなんだ、他にも嫌いなものは沢山ある。

猫はつんけんしてるから好きじゃない、犬の方が好きだ。あと、青より赤が好きだとか、本当に沢山ある。


「…寒いね、二号」


その分、好きなものも沢山あった。夏は好きだし、犬も大好き、赤も好きだから、ダッフルコートもマフラーも暖色系統だ。

あーあ、私の好きな赤い夕焼けが沈んでしまう、沈んじゃう前に帰らないといけない。黒子君もそういっていた。


「ふふ、じゃあまた明日ね、二号」
「…くぅーん…」
「そんな顔しないでよ二号、また明日あえるじゃん」


二号の目は黒子君に似ているからどうしても甘く接してしまう。空が藍に染まりかけていて、なんとなく、「帰らなきゃ」と私を急かしている様だった。

やっぱり、冬は嫌いだ。二号から離れる時の指先の冷たさやスニーカー越しにも届きそうな氷の様なコンクリートがよし冬の切なさを強調させているみたいだし、なにより寒さに震える時、どうしても人肌が恋しく感じるのだ。
まあ、こうして私が一人で帰る事になるのは、友人からの誘いを断った私が悪いのだが。


「だって仕方ないじゃん」


二号とふれあいたいし…じゃなかった。
黒子君、あんまり見えないんだもん。
よく見失うし、いきなり背後にいるし、気がついたら近くにいるし。
彼に恋している私からしたら二重の意味でドキドキしっぱなしだ。


「せめて誰かと帰れたらなぁ…」
「僕でいいなら」
「…え」


一秒、二秒、三秒、たっぷり秒数をかけて、私は気がつく、いつからいた?とかいつのまに?とかじゃない、彼がいる事に驚愕したのだ。


「う、おおおおあっ!?」
「こんにちは、田中さん」
「こ、こんにちは、黒子君…ぶ、部活、部活は!?」
「今日は早く終わったんです」
「あ、そう…」


やばいやばい、心臓のドキドキが止まらない。もちろん半分はびっくり、半分は恋情だけども。
いや、むしろ今は黒子君と一緒に帰れるという事実を嬉しく思うべきだ。部活にストイックな彼と放課後一緒に帰れるなんてレアすぎるだろう。


「きょ、今日も部活お疲れ様だね」
「ありがとうございます、田中さんも、こんな時間まで何していたんですか?」
「あ、あー!ちょっと先生に頼まれ事があって…」
「…優しいですね」
「…アリガトウゴザイマス」


す、凄い、凄いぞ私!!黒子君と喋れてる!というか高感度あげられてる!!発想が乙女じゃないとか言わないで欲しい。逆に乙女というものは好きな人からどう見られるかが重要なのだ。


「田中さんは赤色が好きなんですか?」
「ん、んんー…好きです、ね。うん、赤が好きです」
「コートもマフラーも赤ですもんね」
「なんか、赤って情熱って感じでテンションあがるんだよね、あと可愛いし、寒いの苦手だからなんか温かく見えるし」


隣に人がいる温かさにびっくりした。触れてもいないのにじわりじわりと身体が熱を持つ、恋って凄い。


「じゃあ僕と正反対ですね」
「え」
「髪は水色ですし、どちらかといえば体温は低い方ですから」
「え、ええ、え」


う、わあ、やっちゃった、やっちゃったやっちゃったやっちゃった!!不味い、非常に不味い、なに普通に悪い印象植え付けてるんだ最悪だ私、違うのにそんなつもりじゃなかったのに!!ああ、馬鹿、私馬鹿、なんで寒いの嫌いなの青が好きじゃないの!?なんで!?


「あ、僕ここなんで」
「ええええ!?ま、待って!ちょっと待って!!」


気がつけば駅の前で、私の家は真っ直ぐあと約百メートル。やだ黒子君って凄い自分を突き通す人!待ってくれない系!でもそんな所も好き!!

ああもうやだ、頭が働かない、嫌いじゃない、嫌いなんかじゃないんだ、むしろ逆、その逆!


「好きです!!」
「………」
「……さ、寒いのも、青っていうか水色も、じ、実は…好き、かなー?…なんて…」


死んでしまえ、私、もういっそ。滅茶苦茶だ、どうしてこうなるんだ、というか誤魔化すなら言うな。


「僕も好きです」
「……はい?」
「寒いのより暑いのが嫌いでしたし、赤より青が好きでしたが、最近好きになりました」
「…ごめんなさい黒子君、つまり…」
「つまりは」


部活帰りの学生や会社から帰ろうとしてる人が沢山いるのに誰もこちらをみようとしないのは、黒子君の影が薄いからかただ単に興味がないからか。


「田中さんが好きだから僕も好きになりました。あと、明日からもう少し待っていただけるなら一緒に帰りませんか?」
「は、え、は、い」
「ではまた明日」


そう言って黒子君は駅の切符売り場に消えていく。なるほど、私には全くわからない。
だけど今の私は夏場ぐらい汗をかいてるから寒くない分冬が好きだし、赤より青というか水色が好きだ。でもやっぱり猫より犬が好きなので明日から二号と遊ぶ時間は増えるだろう。