私は死んだ。信号無視をしたトラックに轢かれて死んだ。
お通やも葬式もとうの昔に終わっているのに、今日も成仏はできそうにない。


「…もうそろそろ、私も成仏ぐらいはしたいんだけどなあ、高尾君」
「やだね」


高尾君の左手の小指には、青い糸がぐるぐる巻かれて宙を浮いている。その青い糸の先は私の右手の小指。
そして、青い糸が高尾君と繋がっている限り、私はどこにもいけないのだ。


「あのさ、私は、…もう死んでるんだよ?」
「別に、お前が見えて会話できるんだから構わない」
「えー…無茶苦茶だなあ、もう」


高尾君紐を引っ張る、無抵抗になるしかない私は重力と彼の腕力に従い、彼の目の前まできた。


「これで俺は十分」


屈託ない無邪気な笑顔で私の小指を撫でる。あくまで高尾君が触れられるのは右手の小指だけなのだ、それ以外は、そこ何もない様に、空気のように通りすぎるだけだった。


「…高尾君、私は幽霊だよ」
「それでもいい」
「高尾君」
「だって星子の意思がここにあるんだ、生きているのとかわりない」
「…高尾君」


そこに何があった?空虚すぎる、意味の無い彼との会話はこれで何度目になった?どうして今日も何もかわらない?どうして彼は、今日も私を消さないのだろう。

これだけ私が願っても


「高尾君、この青い糸を切って」
「嫌だ」
「繋がりはもう意味を持たない」
「なあ星子」
「なに?」
「じゃあなんでお前は喋ってるんだよ」


今日も彼は私に捕らわれたままだった。

彼との意味をもたない会話を何回したかはわからない。それでも私は彼と会話する。当たり前だ、私は喋る事ができてその声が彼に届く。


「当たり前だ、だって私は幽霊で意思がある、ならば、好きな人と喋っていたいのは当たり前じゃないか」
「俺もだよ」


今日も私は彼に捕らわれたままだった。

私達の小指と小指に絡まった空虚な青い糸は私達が繋げようとせずに今日も宙を舞った。