彼の眼は、素晴らしい力を持っていた。それなのに、キラキラした力は埋もれて埋もれて、いつしか誰も見なくなっていた。

なのに彼の眼はいつも、いつまでもキラキラしていて、それに背を向ける皆にどうしようもなく腹がたった。


「…伊月君って、なんでそんな頑張るのさ」


静まりかえった部室でボールを磨きながら呟いた。私と一緒にボールを磨きながら伊月君が和やかな顔で笑う。


「頑張るって?」
「皆のために、毎日パス練習して」
「当たり前だろー…ハッ、パステルカラーのパス…」
「くだらない」


くだらない。誰も認めてくれないなんてくだらない。
なんで見てくれないのに頑張るの?だってそうじゃん、実際目に見えたら評価されるじゃん。目に見える物が全てなんて言わない、でも、目に見えないと何もはじまらない。
そんな風にずっとずっと音も立てずに飛んでいたら。


「見えなくなるよ」


もし、見えなくなったらどうするの?周りの光と影に遮られて、鷲が飛べないなんてあまりにも残酷すぎる。だって伊月君は今までずっと頑張ってきた。その姿を私はずっと見ていた。
ボールを籠に、一つ、二つと戻す。跳ね反ってくるボールを押さえつけながら下唇を噛んだ。


「田中」
「…」
「俺が見えるからいいんだよ」
「…は、」
「俺が見えるならいいんだ」


ダン、ダン、二回ボールをついて真後ろにある籠へ高く投げる。ダムッと跳ね反ったボールを慌てて抱き締めた。


「見えるって」
「俺の眼は見える、皆は見えているとわかってくれてる」
「だからって、」
「俺に対して皆が向けてくれる一番の信頼は背中を向いてくれる事だよ」


にこりと笑って残りのボールも全て籠に戻す。埃っぽい体育館倉庫の中でも彼の眼は輝いていた。


「だから皆は見なくていい、見て教えるのは俺の役目だから」


彼の眼は美しいかった。


「見てるよ!」
「…は?」
「私は見てる、ずっと見てる、これからも見てる!!」
「えっと」


目なんか逸らさない、背を向く事が信頼なのは否定しない、それでも私は見えてないと不安で仕方がない。


「伊月君の事ずっと見てるから!!」


彼の眼は不自然に泳いで私を映した。


「…そこまで見られると照れるんだけど」
「………」


羞恥が一秒ほど遅れてきて顔に熱が溜まる。馬鹿、何いってんだ私。


「…あの、ほどほどに、見る事にします…」
「…うん…その、…よろしく」


彼の眼は素晴らしく輝いている。