緑間真太郎はクールビューティーで容姿端麗である。いつでも文武両道の心を忘れない超絶真面目な彼はもはや二次元キャラクター様々である。

私、田中星子はそんな緑間真太郎のガァールフレェンドッ(発音良く)である、つまり所彼女、彼女!!
彼女というのはクールビューティー緑間真太郎に抱き締められる(あまりさせてくれない)し、キスもできる(あまりさせてくれない)し、それ以上だってさせてくれる(させてくれない)。
あの潔癖マン緑間真太郎を行動で愛する事を許された唯一無二の存在なのだ。

そう、私は緑間真太郎の特別な人、特別な存在…

なんだよなあ


「……生まれ変わるなら、私は、マンボウに、なりたいなあ……」


窓際でそう呟いた瞬間、ザァ、と風で葉音を立てる、私の髪も靡いた。


「……」
「……」
「……一応、理由を聞こう」


溜め息を一つ吐き、緑間が眼鏡を上げた。あ、これ駄目だわ、掴み悪いわ、死ぬほどどうでもいいって思ってる時のリアクションだわこれ。
でもいい、私諦めない……あっ、風の所為で口の中に髪入った、気持ち悪い。


「…マンボウって、素敵じゃん…?」
「まだ髪を食ってるぞ」
「………マ、マンボウって…すっごい素敵じゃん…?」
「何がだ」
「フッ、まあ聞いてよ、緑間」


実はこの話をするためにちょっとだけマンボウについてインターネットで調べたから。あと髪食べてる所指摘してないで欲しい、優しく髪を耳にかけるぐらいしてくれないかな。彼女だし

あっているかちょっと心配なので携帯を取りだし内容を確認をしつつ、気だるそうな緑間を無視して口を開けた。髪が口に入るのはやだから窓は閉めた。


「マンボウは寄生虫振り払おうとしてジャンプする」
「ほう」
「ジャンプして水面に落ちる衝撃でたまに死ぬ」
「おい」


水面に浮かび日向ぼっこする、鳥につつかれ化膿、死ぬ。
さらに、日向ぼっこで浮かんで寝てたら陸に上がる、死ぬ。
直進でしか泳げないので岩にぶつかる、死ぬ。
泳ぎが下手なので海流に流されて岩にぶつかる、死ぬ。
だけど泳いでないと呼吸困難になり、死ぬ。
一気に海底に潜水する、水が冷たくて、死ぬ。
クラゲが主食だけどたまにエビとカニを食べる、殻が内臓に刺さる、死ぬ。

以上、私がインターネットで調べたマンボウトリビアである。
ドヤ顔で緑間をみたら馬鹿っていいたそうだった、実はちょっと小声で馬鹿っていった。


「……馬鹿なのか」
「マンボウがね!三億産んで生きるのはほんの一つまみ、もう今まで絶滅しなかったのが不思議になるレベル」
「そうだな、お前も馬鹿だな、それで俺はなんのためにこんな長い話に付き合わされたんだ」
「そう急かすなよ…」
「さっきから謎めいた雰囲気だすのやめろ腹立たしい」


バスンと一刀両断である。酷い。
毎度思うのだけど、緑間は人の話をあまりちゃんと聞かない。ちょっと聞いて物事や思考を理解しようとする癖がある。失礼な奴だ。

確かに私は正直頭が悪い、この前も友人から「あんた、おつむ弱いね。」とアルカイックスマイルで言われた、やだ…周りも周りで負けず劣らず酷い…


「そんな事今どうでもいいっ!!」
「自分の中で解決するな、意味がわからない上に本題までが長い、やり直しだ」
「冷たいんだけど」


この人誰が何いっても冷たいんじゃないの?いや、いい、今から私は昨日八時間ほど考えた知的な作戦を決行する。あっという間に緑間はきゅんってするだろう、三分、三分だ、三分で緑間をきゅんってさせてやる…


「で、話は本題に入ります」
「長い」
「マンボウは超ちょっとしか生きる事ができない上に、こんなに簡単に死んじゃうんだよ」
「無視か貴様」


本を読み始めたので奪いとる、思いきり不機嫌になりおった…話…聞けよ。


「そんな私達も約一億の精子の中の戦いに勝ち、選ばれた者…」
「女が精子とかいうな」


立って話すのも疲れたので緑間の向かいになる様に椅子に座る、肘をついて手を組んだまま、人差し指を緑間の目の前にさした。


「そしてそんな約一億分の一の私と緑間が出会えたなんて、これは、」
「くどい!!」
「やだー!私最後まで言ってないのに!!」


やっばり緑間は最後まで話を聞かない、いいじゃないかちょっとぐらいくどくても、ちょっとぐらい鬱陶しくてもー!!

しかも緑間は今、心の底から「めんどくさいのだよ、早く結論をいえ馬鹿め」という顔だ「めんどくさいのだよ、早く結論をいえ馬鹿め」口にだしおったこいつ。


「私はね…緑間と…キスがしたいんだよ…」
「……田中」


あっー!!ここで窓開ければよかったー!!風が吹いていい感じになりそうだったー!!失敗したー!!
でもまあいい、みたまえ緑間のきょとん面を、目を見開いて何いってんだこいつみたいな顔をしてるぞ!なんでそんな顔すんのよときめけよ!!彼女がキスしたいっていったんですけど!?


「田中、お前ってやつは…」


眉間に手をあてる緑間にいらっとする、み、緑間…ちくしょ…ジーザスって文字が背後に見える!


「はっー!死ぬほどこいつ残念みたいなお顔ですね!やめてください!!」
「可哀想だ…」
「やめてください!!」
「本当に、頭が弱い」
「うわーもう!馬鹿にするなよ緑間ァ!!あ?」


頭が悪いの指摘されて半ば逆ギレ、八つ当たりの気持ちで緑間に指さしてぎゃいぎゃいと叫んでいたら、指をさしていた手を掴まれた。


「…は?」
「自分の言った事すら思い出せないか」
「あん?」
「付き合う時に、抱き締めるのもキスもそれ以上もあまりしなくていいといったのはそっちだろう」
「あ、は、…は、はああああああああ!?」


まさか律儀にそんな馬鹿みたいな告白を真に受けてたのか緑間、そんなの「み、緑間君が嫌ならいいよっ」っていう意味だろう!デリカシーない!乙女心が読めない!!緑間の方がおつむ弱いだろこれ!!


「彼女にそんなの気にしてんじゃないよ!緑間の馬鹿!!」
「馬鹿とはなんだ、俺はお前が嫌ならと思ってな」
「冗談だよというか嘘だよ告白を受け入れてもらうための手段だよ!!」
「お前俺に嘘をついたのか」
「うっさいわ!!」


どんだけ真面目なんだよどんだけ言葉通りに受けとるんだよ!!というか言われたからってこんなに手を出さないもの!?冷たいとかそういうレベルの話じゃないってこれ!!もう欲求も無ければ興味も無いってこれ!!


「だからいきなり馬鹿みたいにマンボウの話をはじめたのか、いきなり馬鹿みたいにマンボウの話をはじめたのか」
「二回いうな!マンボウに罪はない!!」

「つくづく馬鹿だな」
「ほんど酷い!!」
「そう喚くな、マンボウの話を忘れる」
「むしろそれは忘れて」


ああやっぱだめだ、この人話聞かない所か話通じないよ、私の力じゃ愛の言葉の一つを出せないよ。
いや、今手を掴まれ握られてるのもスキンシップに入るならスキンシップをさせている、緑間からのスキンシップとか…久しぶりっていうかお初だった様な気がしてくる…大切にされすぎて扱いが無下だ。


「爪の手入れをしろ」
「緑間みたいにいちいちできましぇーん!緑間が私の手入れしてくれたらいいと思いまーす」
「そういえばお前マンボウの話が終わった後なんていった」
「マンボウの話はもう忘れましたぁー」
「馬鹿め、簡単に何度も自分の言った事を忘れるな」


ふに、と爪先に何かが当たる。ん?何かな?マシュマロかな?いやまて、思い出せよ私、マンボウの話を後に言った台詞があるだろう。


「な、な、み、みど」
「………お、お前がしろと!いったんだろう!!」
「照れるならするなよー!!うつるじゃん!!」


自分からして耳まで真っ赤にするならしないで欲しい、いや、やっぱして欲しい、というか口にして欲しい。

…なんでこんな事でぎゃあぎゃあ騒いでるんだろう、まだマンボウの方が私達より賢い。


企画“kiss to”様提出