「寒い」
「そうだな」
「真太郎さんや」
「なんだ」
「私を……温めて!!」
「死ね」


その瞬間、私と真ちゃんの間には絶対零度が通りすぎていった。これは酷い。


「ちょ、ほんと寒い、死んじゃう、死んでしまうよ星子ちゃんが!!愛しの彼女が死んじゃうよ!?」
「俺の彼女は寒さごときで死なん」
「わーぉ正論!!真ちゃんのそういう所が好きだよ!!でもね、寒いもんは寒いんだよ!!」


私と真ちゃんはストーブ無しでは不可能な時期だというのに、バスケ部の第二部室に閉じ込められていた。
ボロい秀徳のバスケ部の第二部室はたてつけがかなり悪く中からは開かない。普段真ちゃんは第一部室を使うのだが私に呼んでいるという事で第二部室にいった所閉じ込められた。私も同じだ。
しかも「至急!!」とお互いいわれたので携帯をとる暇なんかなかった。それを聞いて私を心配してくれたのかと少しにやけた。緊張感ゼロである。
まあつまりは、真ちゃんの努力が気にいらないクズ先輩に嵌められたのだ。


「真ちゃんお汁粉もってない?」
「ないな」
「真ちゃんカイロもってない?」
「ない。お前どうなんだ」
「部活はじまる前にお亡くなりに」
「そうか」


第二部室に何かないかと漁るも真ちゃんに「人の物を触るな」と言われた。閉じ込められたのに優しい。真ちゃんのそういう所が大好きだ。
大人しくベンチに座るもコンクリートの部屋は寒すぎる。


「真ちゃん真ちゃん寒くないの」
「寒いに決まっているだろう。次期に見回りの人がくる」
「うひゃあー、クール!それもそうだわ、うん、我慢しよう!」


真ちゃんはどこまでも真ちゃんだった。というか、よく考えてみろ、田中星子。真ちゃんはシャワー浴びたんだから湯冷めしてるし、真ちゃんのほうが私より何倍も寒いに決まっている。
明日もきっつい練習が真ちゃんにはあるんだ。そうだよ、真ちゃんの彼女が寒さごときでピーピーいってんじゃないのだよ、ってやつだ。
これぐらい我慢しろ。田中星子。


「真ちゃん真ちゃん出れたら何したい?」
「いきなりなんだ、……お汁粉を飲む」
「うわ、予想的中だわ!私はとりあえず肉まん買いにいく」
「そうか…田中」
「なあに真ちゃん」


真ちゃんが不機嫌そうに私の名前を呼ぶ。やはり寒いのか、私にできる事ならなんでもしてあげよう。


「こっちにこい」
「うん」


ベンチに真ん中に真ちゃんは座っていたので端にいた私は真ちゃんの目の前にくる。一体なんだろうか。抱き締めるとかそんなんだろうか。なーんちゃって。


「、ぅわっ、」


思いっきり手を引かれ真ちゃんの逞しい胸板にダイブする。う、うおおおおお真ちゃんの筋肉が眩しい!!ごめんなさい変態なんていわないで!!


「膝に乗れ」
「うえええええいいんですかいいんですか真太郎さん」
「早くしろ」


おずおずと足をベンチに乗せ真ちゃんの膝に座る。ぴぎゃああああああ真ちゃんが近い真ちゃん真ちゃん真ちゃん真ちゃんうわあああああ!!

頭がぐるぐるぐるぐるしていたら真ちゃんのジャージが背中に被さる。そのままぎゅっと抱き締められた。


「しししし真ちゃん」
「閉じ込められたのは俺の所為だ」


あ、そっか、そういう事か。
真ちゃんは私に申し訳ないと言っているのか。
真ちゃんは優しい。優しい真ちゃんが私は大好きだ。


「真ちゃん大好き」
「……煩い、落とすぞ」


耳を真っ赤に染めた真ちゃんにぎゅっと抱きついた。体が内側からぽかぽかする。