好きな女の子が歩いてたら怪物がくるんだよね、恐竜みたいな、ゴジラみたいなやつね。
そんなピンチを察して颯爽と現れた俺が女の子守るんだよ、ヒーローみたいにかっこよくね。そしてハッピーエンド、幸せに結ばれました。


「なーんちゃって」


うん千回とくだらない妄想をしながら苦笑いをした。昔からこういう馬鹿みたいな妄想をしてきたからかもう自分のおかしさにも慣れてしまった。
そんな事を思いながら、週末提出の読書感想文を進めていく。夏休みでもないのにいきなり読書感想文なんてどうかと思う。めんどくさい。
読書感想文にするなら太宰治の人間失格とか、有名どころがベスト、そんな俺もヘルマン・ヘッセの車輪の下なんだけど。
提出がまだ先だからか図書室には俺しかいなくとても静かだ。感想用紙と本と交互に睨めっこしながら書き進めていく。
そんなに静かだからまた俺の頭にもやがかかって夢物語が現れる。次は巨大な竜に乗って海の上を飛んで…


「手綱は?そのスピードじゃ落ちる」
「!!」


いきなり声がして目を見開く、机を挟んだ目の前にはみたことない少女が絵本を持ちながら此方を見つめていた。


「竜は何色?赤?青?」
「な、んで」
「声にでてた、でも竜ってどんな見た目なの?エルマーとりゅうのボリスみたいな竜なの?」
「いや聞かないでよ!!」


まさか口に出したとは思わずに頭は混乱するし、茶化されて大声を出してしまった。
女の子は目を丸くして此方を見る。大声出したのは申し訳ないけどいきなり夢物語を根掘り葉掘りきくのもどうかと思う。
思わず溜め息を吐いた。


「…はぁ…」
「なんで溜め息をつくの?何もおかしくないじゃない」
「はあ?」


きょとんとしたように彼女が絵本をばさりと広げる。
俺も小さい頃みたぐりとぐらの話、確か、


「すっげぇでかいカステラ!!」
「そう!皆で食べてね、そして玉子の殻で車を作るの!!」
「俺小さい頃こんな玉子あるって信じてて!!…」


そこで口をつぐむ、何いってんだ俺、馬鹿、これだから、頭ん中妄想ばっかこうなんだよ…
車輪の下を閉じて感想文を片付ける。とてもじゃないけどこれ以上はここにいれない。


「じゃ、俺はこれで…」
「あるかもしれないじゃん」
「…ん?」

「都会のトムソーヤみたいな知的な冒険、バムとケロみたいにのんびりした日常、百万回生きた猫みたいな切なく感動的な話、あるよ」


彼女が目をキラキラと輝かせてくるりと振り返った。スカートをはためかせ艶やかな髪を流す。絵本の中ではぐりとぐらが玉子の殻で車を作っていた。
その眩しい目に俺の妄想が加速した。スラムダンクの花道みたいに成長したりウルトラマンみたいなヒーローだったり、


「穴みたいにスタンリーとゼロが一発逆転するかもよ?ともだちやみたいに本当の友達を作ったり」
「…じゃあさ」


彼女の瞬きは閃光みたいだった。


「いきなり女の子の前に怪獣がでてきて、俺が登場して助けるとか?」
「!!あるよ、あるよ!そして二人が恋に落ちる夢のラブストーリーだよ!!」
「…ははっ、だよな、あるよ」


明日俺が世界を守るヒーローになるかもしれない、空を飛んだり、あるかもしれないじゃないか。


「高尾和成」
「田中星子、あ、図書委員!」


俺の妄想が映画のフィルムみたいにぐるぐる回った。