「わあー」
「あ?……うおおおおお!?」


庭で洗濯物を取り込んでいたら上から田中が落ちてきた。
手にタオルを持ったまま落下地点へと伸ばせばそこにぼっふんと乗った。流石に落下する人間を腕だけで受け止められない。が、俺がいただけで田中の命は助かったのだ。田中がもし普通に落下したなら二階からとはいえ“こいつなら”煉瓦やら石やらに頭を打って死ぬに違いない。


「おっまえ!!」
「清志ナイス!いやー凄いね、もしワンクッションがなかったら死んでたわ」
「…もうお前ベランダに一生でるな」


いやーごめんごめん、と立ち上がったとたん田中の顔面にサッカーボールが直撃した。


「がは、っ」
「おおおおおい!?」
「すみませーん!!黄金の右足を持つ翼が蹴ったボールそっちにいきませんでしたかー!?」
「うわあああ田中!!起きろ!!返事しろおおおおお!!!!」
「…全然、大丈夫」


親指を立てて気絶した田中へ叫んでも返事はなかった。まあ軽い脳震盪だろう。だけど心配な物は心配だ。

嗚呼、どうして田中はこんなにも不幸なのか…

田中が不幸だと理解したのは幼稚園の時、一日に車に十三回轢かれかけて悟った。
自分しか田中を守れないと理解したのは確か小学生の時だったと思う。
小四の春。俺が田中の腕を引っ張った瞬間目の前に鉄柱が落ち砂ぼこりをたてていたのだ。それをみた瞬間、「ああこいつ俺がいないと簡単に死ぬ」と悟った。

田中が外に出れば、鉢植えが頭に直撃し、不審者に襲われ強盗事件に巻き込まれ車に轢かれて死ぬ。そんな未来さえ予想できる不幸少女が今まで生きていけたのは俺のお陰…だと思う。
だって俺がいたら田中は何にも巻き込まれない普通の女の子なのだ。昔から運が強い俺と運が悪い田中は一心同体みたいな。


「うー……」
「おー起きたか、どうだ目覚めは」
「…んー頭痛いやー…」
「そりゃそうだろ。水もってくるから日に浴びとけ」
「うん、早く帰ってきてね」


自宅へ二歩あるいてある光景が頭を掠める。もし俺がいない間に田中の頭に植木鉢が落ちてきたら。


「田中っ」
「清志、私はそんな柔な女じゃないよ」


みてよこの力瘤!と腕を曲げ笑う田中をみて自然に笑えてくる。
そうだよんな事あるわけねぇよ。


「じゃ、水とってくるから」
「うん!!」


俺が台所につくまであと四十秒、俺がここに帰ってくるまであと八十秒、
血だらけの田中を見つけるまであと百秒。