「聞いてー!!彼氏にフラれたぁー!!」


いやそんな事言われても困るんですけど、そもそも席が前後だからとていきなりフラれた悩みをぶちあけるなよ。携帯のディスプレイを眺めながら、溜め息混じりにどうしたの、と尋ねる。というかこいつ進学校の癖に彼氏といちゃつくのか、あ、勉強しないからこいついつも赤点なのか。


「なんか彼氏が浮気してたらしくて」
「ふーん、アンタに何か足りてなかったか彼氏が飽きたか浮気相手がよかったからかだね、まぁどっちにしろアンタより浮気相手の方がよかったんだし諦めたら?」
「…さ、最低、酷い」


さらに激しく泣くので無視して携帯を弄る、話題をふったのはそっちなのに話を切るのはそっちか、全く下らない話の癖に終わりも下らないとか目も当てられないなぁ、ほんと。あちこちで「最低」だの「酷い」だの聞こえるけどじゃあアンタが話聞いてやれよ。残念ながら私に「辛かったねぇ、貴方は悪くないよ」だの嘘を吐いてまで傷を癒してやるほどの優しさは持ち合わせてはいない。
未だに号泣する女を尻目に、アール指定のかかるグロテスクな小説を読み進めていたら携帯を何者かに奪われる。


「…趣味悪いなお前」
「お前には言われたくねぇな花宮、早く返せよ」


眉間に皺を寄せて首だけを動かし見上げれば花宮が意地悪く笑っていた。ふはっと声を上げて私の携帯をひらひらと揺らす。手を伸ばしたら届かない位置まで携帯を上げられた。子供かてめぇ。


「返せよ」
「はっ、返してください、だろ」
「本気で餓鬼かお前は、くだらねぇな、花宮、いつまでそうして私をマネージャーにさせようとするんだよ」


花宮は一年生の時から私に付きまとい事ある事にマネージャーの勧誘をしてくる。飽きないのか二年生になった今もそれは続いているから驚きだ。早く話の続きが読みたいのに、ほんと呆れた、溜め息を吐いてもう一度手を花宮へ伸ばす。にやりと笑って上げられた携帯を救出すべく花宮の胸ぐらを力強く掴んだ。


「は、?」
「将を射んとせば先ず馬を射よ、つー諺しらねぇのかよ花宮」


力強く掴んだ手を今度思いきり私の方て引っ張る。いきなりの事で簡単に動く花宮に単純な奴だなと笑い口を塞いだ。勢いをつけすぎてカチリと歯が当たる。ちっ、ちょっと痛い。
案の定花宮の手から私の携帯が解放されて重力通り落ちる。空いてる方の手で携帯をキャッチして口を離した。
目を見開いて口を開ける阿呆面の花宮に無表情で言葉を投げ掛けてやった。


「花宮、アンタってマネージャーになってくださいって頼んだ事は一度もないな、私って性格悪いから性格悪いアンタにお願いして貰うまでマネージャーになる気もアンタの彼女になる気もないわ。じゃあ素直になれるよう頑張ってくれよ花宮」


椅子から立ち上がり、放心する花宮と何故があんぐり口をあけ放心するクラスメイトの横を通りすぎる。数学の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
グロテスクな小説と反して世の中はこんなにも平和で素晴らしい。