※BLD

そこそこ広い和室に寝転び、扇風機だけを頼りにする宮地と俺、俺も百八十後半ぐらいの身長だが、宮地に至っては百九十を越えている、超でかい。
俺はそんな巨人宮地君の固い腰を枕に、たまにくる風に命を預けていた。というまじで腰枕痛い、漫画の内容入ってこない、不思議!!


「…あちい…」
「うんあつい、…なぁ、宮地、アイスくれアイス」
「知らねえ自分でとってこい…」
「やぁーだぁー宮地くぅんー!かわいいあたしぃのためにぃアイスとってきてぇ!!」
「死ね」
「ごめん」


高校生活最後の夏休み、最後だからといって、勿論馬鹿みたいにバスケ漬けの毎日、久しぶりオフを過ごす相手は同じ男子高校生、最後の夏休みしょっぱい。


「…宮地」
「なんだようっせえよ田中」
「…なんでお前ん家のクーラーぶっ壊れてんの」
「知らねえよ勝手に壊れたんだよ嫌なら帰れ」
「嫌っていってませーん」
「そうかよじゃあ喋んな」
「つめてー」


夏の暑さとは真逆に、休みを共に過ごす悲しきドルオタ男子高校生、宮地は俺に冷たい。…いや、冷たいといっても、勿論性格的な意味でだが、現在進行形で彼の喉を汗が伝う。
あーあ、こんなに大きく冷たい子に育っちゃって、星子寂しいー…ん?口に出てた?ごめんごめん、俺が悪かった清志ちゃんああああ痛い痛いごめんなさいって!!
なんて馬鹿らしい事できるのも今だけだ、明日になればまた地獄の様な練習の始まりである。死ぬ。


「スイカとアイス食いたい、あと冷やし中華、焼豚多めで」
「あーいいな、食いたい」
「宮地のには俺が可愛くハート書いてやるよ、マヨネーズで…あ、上に焼豚を乗せてピンクのハートにしよう、女子力高いだろ?」
「よし、俺はケチャップでハートにラブもつけてやるよ」
「やめろ冷やし中華にケチャップはやめろ」

「…暑いな」
「…暑い」


暑い、暑い、本当に暑い。もう暑すぎてゲームをする気にすらなれない、俺が思うに、太陽は本気を出しすぎてると思う、何も修造じゃないんだからもっと涼しくなれよぉ!あとゲリラ豪雨も凄い、日本はいつから熱帯雨林になったの?そんなジョブチェンジ国民望んでないです。

そんな馬鹿みたいな事を思っていたら枕がなくなり畳に後頭部を強打した。やっべえ超痛い、宮地、俺唸ってるのに無視しやがる、鬼かこいつ。
涙で歪んだ視界で宮地の姿を見つける、きだるそうに襖に手をかけてる姿がぼんやりと見えた。


「…俺を置いてどこにいく宮地、まさかクーラーに会いにいくのか、浮気か、やだー宮地君サイテー!!」
「ちげぇよ馬鹿、アイス。お前は梨味だっけか?」
「いやっはー!!梨、絶対梨!コンポタだけはやめろ」
「頼まれてもコンポタねーよ」


そう半笑いで出ていった宮地を見送り扇風機の前に座る。人工的に作り出された風が俺の前髪を飛ばしおでこを全開にさせる。いやん、風のえっち。…うん、俺暑すぎて確実にハイになってるわ。
あー、暑い、ほんと暑い。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙…」
「子供か」
「お前それスイカバーじゃん」
「文句いうなこれしかなかった」
「いやいや俺スイカバー大好きだから、まじで結婚したいぐらい」
「じゃあ結婚しろ、おらちゅー」
「ぎゃああああ冷たい冷たいいいいい!!!!」
「ざまあみろ」


真っ赤なスイカバーを口に無理矢理突っ込まれ、畳に押し倒される、こんな時に純粋に笑うものだからこいつはたちが悪い。
俺の苦しむ顔をみて満足したのか、宮地は笑いながらスイカバーを食いはじめる、身長がいくらでかくなろうが顔立ちだけは未だに幼めだ。


「おらよ」
「おう」


口の中に突っ込まれたままのスイカバーを突っ込まれたまま渡される。そのまま上半身だけを起こし、扇風機にあたるよう胡座をかいてスイカバーに歯をたてる。冷たく分解して口を冷やしていった。
喉を通って胃にいく氷菓を無心に食べ続けていたら、ぼふんという音と共に右足に重量を感じた。


「…なにしてんの」
「お前が俺を枕にしたから仕返ししてんだよ」


下をみれば得意気に俺の右足、詳しく言えば右太股に頭を乗せ、スイカバーを食べ進める宮地がいた。
…いやいやいやいや


「固いだろ」
「固い」
「やめとけ、首痛めんぞ、あと俺が身体固いから痛い」
「ストレッチだばーか」


いやいや宮地さん、痛いんですよ?まじで、身体柔らかい宮地さんにはわかんないっすよねー、この痛さ辛さ?あと仕返しとか怒ってたんすかー、すみません宮地さんまじで。


「足に頭乗せるとか、俺って意外と愛されてんのねー」
「は!?ばっかちげぇよ気持ち悪ぃな!!」
「はいはい、…あ、足やめて、俺いまから寝転がるから、俺みたいに腰にして」
「…ん」


真っ赤になって否定する癖に結局俺を枕にするんですかそうですか、腰も固いっすよー宮地さん、覚悟しないといかんよ、ほんと。


「…固いだろ」
「…固い」


腰に乗る頭は熱くて、勿論日差しも暑くて、顔の熱さも身体の熱さもさっさと消えます様に、スイカバーに噛みついた。


「あつくね?」
「…あつい」


夏の暑さも、俺の熱さも宮地の熱さも、まるで火傷するぐらいで、じわじわと熱くなっていく。
せめて、スイカみたいに甘く冷たくなれたら、こうして熱くならずに済んだのに、暑くて熱くて、勿論漫画の内容なんてわかんない、とりあえずヒロインが何故か死にそうになっている。


「休みって終わって欲しくねーよな、明日から部活付けだ、青春してーよ青春」
「お前好きな女子いんの?」
「…いねーよ」
「ふーん、俺みゆみゆ」
「アイドルだろ」


好きな女子なんていねーよ、馬鹿、あーあ、あついあつい。