※男主,友情


「例えば、お前はあの女子をどう思う?」
「胸があまり大きくない」
「最低だな!!」


ズゴリ、本日二本目のミックスジュースが間抜けな音を立てて無くなった。


「お前は女の子をなんだと思ってるんだ…」


いつも通り、日が当たる由孝の席で昼ご飯。ミックスジュースと惣菜パンという、面白いほどむなしい俺のご飯とは対象的に、由孝のご飯は母が作った、愛妻弁当ならぬ愛母弁当。こいつ幸せだよなあ。思いながらツナマヨパンをかじる。


「いやいや俺は女の子大好きだよ。でも本能に忠実なんだよ」
「女の子を胸でしか見ないお前は人じゃない……」
「抜かせ、俺は女の子を顔と胸と足で見てる。好きなタイプはパツキンの美少女だ」
「そんな女の子世の中にいない!!」
「黄瀬が女ならいいよな」
「うわ凄く最低!!」


だってヨ由孝クン、男なんて皆そんなもんだろ、でかいおっぱいとキレイな足と可愛い顔があれば大体大丈夫なんですよ?由孝クンみたいに、まともで真面目に可愛い女の子探していちいち告白するやついないっての、ナンパな男だけどね。
…やべえ、このツナパンめちゃくちゃ不味い、なんか変な味がする……


「お前は最低な奴だ!!女の子を乳で選んで!!」
「由孝だって顔選びじゃね」
「俺はその子を見ながら好きになるんだ!!」
「おう、見た目じゃん」


いやー、由孝って可哀想だよな、一途(その場によるが)に愛しても思いが通じた事なんてないもんな。

俺は由孝とはかれこれ仲よくなって十五年になる。長すぎだろ、うわ気持ち悪くなっていた……まあ、それだけ仲がよくなった友人も由孝がはじめてだけども。


「それで、由孝はあの微妙に胸が慎ましい女性のどこらへんが好きなのさ」
「えっ、ちょ、な、なにが…」
「好きなんだろ?あの微妙に胸が慎ましい女性が」
「胸が慎ましい胸が慎ましいいうのやめろ!!」
「慎まし子のどこが…」
「だから!あの子の事悪くいうのやめろ!!」
「ほう」


だからつまり好きなんじゃんか、慎まし子がこいつは。
それにしても珍しいよな、あれだけ今まで平和温厚、可愛い女の子にあちらにふらり、こちらにふらり、そんな事をしていた由孝が慎まし子にゾッコンラブ、確かに慎まし子は顔がべっぴんさんだけどねー…
慎まし子は強いていうなら女の子にモテる人だ、なんてったって黄瀬の次に人気の海常の王子様だ。勿論、王子様って言われててもまごう事なく女の子だけどね。


「ほらいいなよ由孝、好きですう!お付き合いシクヨロ〜って」
「言うわけないだろ…」
「なにヘタレチキンやってんだよ」
「いや…あいつはそんな…」


えー!こいつまじかよ!!合コンだとかいっといていざゾッコンラブしたらこんなチキンになるのかよー!!今まで可愛い女の子にすぐ凸ってた森山由孝君どこに消えたんだよ!!!!


「俺期待してたのに…由孝と彼女がいるところ…」
「……田中、お前…」
「そしてなんか全面的に会話がうまくいかないサマをみてみたかったのに…!!」
「クズ!!」


あーらら、あらら、本当に、面倒な事になっちゃったね、由孝、こうして好きって気持ちでひっかき回されるのは初めてなんじゃないのかねえ。
…オトメン由孝、ヤッバ!すげえ笑える!!
でもさ


「今、意外に楽しいだろ?」
「は?……まあ」
「恋したら、世界が劇的に変化、なんてそうそうないんだよな」
「…悟ってるな、星子」
「でも確実に、何かが変わるんだよ」
「それは思う」


残り短くなった昼休み、由孝は弁当をせっせと運びながら相槌をうつ。俺の不味いツナパンはすぐに無理やり押し込んだ。アレ本当に不味かった、二度と買わない。


「キラキラなんて、いっこもしてないんだよな」
「…そうだな、キラキラなんて夢のまた夢だろ」


恋したからって、劇的に世界は変化しない。瞬く間煌めきなんて、ほんの一瞬かもしれない。叶わないなら、それは苦しくてたまらないものかもしれない。それでも人は絶対に恋をする。


「今日も元気に部活だっつの…そういや慎まし子何部?」
「慎まし子やめろ!!」


確かに、今日も世界は輝いていない。


キラキラ輝かない日々よ、灰色で汚れたこの青春、泥だらけで汗臭くても、嫌いじゃないぜ。


「田中くんっ…あの…これ…」
「ん?ああ、ありがとーねー」
「…お、おい、お前それ…」
「ラブレター」
「死ね!!」