「覚悟しててね」

という少女漫画にありがちな台詞は、あまり好きではない。かっこよかったら許されるみたいなのと、強引な感じがどうも好きになれないのだ。
個人的な話になるが、私の好きなタイプは聡明で誠実、少しクール、そして話がわかる人である。
つまり、話がわからない自分勝手で騒がしく煩い人は苦手な部類の入る、だから苦手なのだ、いけいけ系なんて。


「…葉山君、毎日毎日懲りひんな、暇なん?バスケ部やろ?うちんとこ強いんやろ?」
「つえーよ!!でも星子ちゃんに言いたい事があったからきた!!」
「とんだトラブルメーカーや!!はよ部活いかんと!!絶対またマッチョの人とオカマみたいな人迎えにくるやん!!」
「大丈夫!!」
「じゃないよなー!!」


苦手だ。葉山君なんて。

葉山小太郎、隣のクラスで部活はバスケ部、二年でレギュラーをつとめる彼に私は苦手意識を抱いていた。
部活に取り組みレギュラーを勝ち取った葉山君を尊敬してたし、純粋に彼は凄い人なんだなあとも思っていた。
だけどどうも彼のテンションやらが苦手なのだ、できればあまり関わりたくない。
そんな苦手な葉山君と私が知り合ったのは廊下。


「あの、葉山君、落としたで?」


シンプルなデザインのザ、男の子!って感じの紺の筆箱だったと思う。
普通学校で落とした筆箱に気がつかないなんて事ないと思うんだけども、筆箱を落とした持ち主、彼、葉山小太郎は気がつかず鼻歌混じりに五歩前を歩いていた。


「んー?わ!本当だ!ごめん!」
「いや、大丈夫。筆箱落としたったら可哀想やし、気づいてあげてな」


皆さんわかる通りこれはジョークだ、本当に筆箱が可哀想なわけない。あくまでも「もう落とさないでね!」という意味を込めた誰でもやる軽いジョークのつもりだったし、誰が聞いてもこんなのしょうもないジョークだとわかるだろう。
そう、誰も本気にする人なんているわけないのだ。
だというのに葉山君は眉間に皺を寄せ訝しげにこう返した。


「筆箱が?可哀想?」


はあ?何いっとんコイツ。そう本当に思ったし、周りにいた、いつも二人でいる仲良しコンビも、サッカー部の澤田君だって、廊下で私達の話を聞いた少年少女全員が頭にハテナを被せた。


「えっと…冗談やで?」
「冗談?……ああ!冗談ね!!」


そんな風に見えなかったからびっくりした!!ありがとね!
バビュン、ドビュン、そんな音が聞こえてきそうなぐらいのスピードで葉山君は駆けていった。取り残されたのは私と仲良しコンビと澤田君。全員がぽかんと口を開けていた。


「…それで、言いたい事ってなに?」
「あ、そうだった!星子ちゃんが好きです!!」
「ごめんなさい。はい部活いってらっしゃい!!」
「酷くないっ!?もっと色々聞いてよ!!」
「色々聞いたわ何週間も前に!!」


あの筆箱事件から一週間後、何度か話しかけて気がつけば私は葉山君に好かれてしまったのだ。こういったコクハク紛いを受けるのもかれこれ何度目なのかわからない。
そりゃあ私だってはじめはドキドキもしたり何事って思ったし…ていうかなんで私!?って思ったしいや今でも思ってるし…別に葉山君が嫌いなわけじゃないけど、なんていうか…苦手なんだよなあ。


「はよ部活いきーや…」
「…なんでちゃんと話聞いてくれないの!?」
「はい?」
「ひどいっ!!」
「はいい!?」


え、なになになんなん葉山君、情緒不安定なん!?ちゃんと話聞いてるし、何回聞いたかわからんし、こういう所も苦手やわー葉山君!!


「あんなあ、葉山君、私は葉山君に部活頑張って欲しくて…」
「部活頑張って欲しいなら付き合って!!」
「いや無理」
「なのは!!知ってる、け、ど…さあ…」
「どうすればええの…」


私葉山君の事好きちゃうもん、っていうか葉山君に何したん?ただ筆箱拾っただけやん。そんなんで恋に落ちるなら世界中の人間は簡単にポロポロ恋に落ちちゃう、死んじゃう。
そもそも好きってなに?好きってもっと違う感情やないの?こんな軽い感じじゃない、絶対に。


「…葉山君、なにしたいねん…」
「そういうのだって!なんで目を逸らすのさ!!ちゃんと俺の目をみていってよ!!」
「だって葉山君、多分それ恋ちゃうよ」
「…は?」
「恋って、もっとちゃんとした」


バンッ!!って爆音、はじめ、それが葉山君が机叩いたんだって事すら気がつかなくて、ただでなくても注目を集めていたのにとうとうクラスにいた全員が此方を見ていた。


「…葉山、く」
「真剣!!」
「は」
「真剣!!俺はずっと真剣!!」


葉山君が怒ってる。声を荒げて怒ってる。私に、本気で。


「葉山君」
「なんで簡単に恋じゃない!とかいうの!?ていうかちゃんとしたってなに!!」
「だ、だって、関わりなんて筆箱しか…」
「俺はさあ!!それ以降の関わりを経て星子ちゃんが好きなんだよ!筆箱拾ってくれてそんで話すようになって可愛いなって思うようになったんだって!!」


知らなかった、っていうか、知ろうとしてなかったのかも知れない。葉山君の事ちゃんと見てなかったのかも知れない、本気だと思わなかった、からかってるって勝手に思ってた。


「…ごめんなさい、葉山君」
「…本気だから」
「う、うん…」
「本気だから!」


ぐいっと胸ぐらを掴まれる。えっ殴られる!?殴られるこれ私!?殴られる!?殴られるんじゃないの!?だって、葉山君怒ってるし!?


「な、なぐらんとい………て…」
「…覚悟しててね。俺の本気すっげーすげーから!!」


そろそろ部活いかないと赤司にぶっ殺されるからいってくる!!じゃあね!!ばいばい!!
バビュン、ドビュン、葉山君は嵐の様に去っていった。まだ熱を孕む鎖骨をゆっくり撫でる。シャツ越しやけど、シャツ越しやけど!!


「葉山やっるう!」
「澤田君黙っといて…!!」


なんなんなんなんなんなん葉山小太郎!!全部全部掻き回して、だから苦手、葉山君なんて!!
シャツ越しに鎖骨にキスされただけでこんなに心臓バクバクやから、なんも考えられへんから!!ていうか皆いる前でする!?信じられへん!!そこ!!ひゅーひゅーちゃうわアホ!!


企画“kiss to”様提出