凄く、可愛らしいと思った。


「寿葉子、好きな色は緑色です」


俺の苗字の色だったから、まるで自分に好きと言われたみたいだった。
皆彼女を疫病神みたいに扱っていて、凄く可哀想だと思うより、不思議で不思議で堪らなかった。
だから小学三年生の時不器用にも喋りかけたし、長い時間がかかったけど高校生になって彼女の隣にいる事ができた。

でも、まぁ、それだけだった。

春に彼女の口から溢れた「好き」に何故だかむしゃくしゃして、まだ入学して一ヶ月も立たずに美術部期待の部員になっていたり、出合ってたった一日で高尾と仲良くなった彼女にもむしゃくしゃした。

何故こんなにもむしゃくしゃするのか、俺は考えた。

俺は彼女に何を求めていたのだろうか、友達になりたかったのか、理想になりたかったのか、それとも認めて欲しかったのか、嫌われたかったのか。
何日悩んでも悩んでも悩んでも悩んでもおは朝を見ても人事を尽くしても解決しない問題に、俺は。


「…無理なのだよ」


逃亡をはかった。何をしても答えが出ない、この問題は解けない、少なくとも今の俺には一切。

明日の朝になれば寿が迎えにくる、少し駄弁れば高尾がきて俺と寿を乗せて学校へ向かう、朝練習がある俺達に無理にあわせてるのかと問えば、寿はにこりと笑って美術部の作品を仕上げるといった。

彼女は昔から努力を惜しまない人間だったのを知っていた。どれだけ厄介者と扱われても彼女は泣くことも立ち止まることもせずに自分の世界を作っていた。そんな彼女に俺は憧れをもっていた。

段ボールにハケが通ると綺麗な緑が色付けられる。一寸の狂いもなくはみ出さず綺麗に段ボールに木が描かれる。息を飲むほど美しい、木。

…それだけだ、俺と彼女の間は一体なにで埋まっているのだろう。



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