画用紙に筆を滑らせていく。今日の私は八位と低めだがラッキーアイテムの蜂蜜も横に置いてあるので運気補整はされている。間違って水入れを倒すなんてミスはしないはず。 水彩画は好きだ、派手な色より淡い色の方が私は好きだし、何より書きやすい。 空を塗り終えて時計に目をやる。時間はもうすぐホームルームが始まりそうだった。 「…やば、もう教室いかないと」 絵を書いているとつい時間を忘れてしまう。手早く画材を片付けて蜂蜜を鞄に入れて美術室から出る。遅刻してないのに遅刻がつくのはなにか腹立たしいから嫌だ。 廊下を早歩きで進めば角で誰かにぶつかった。 身長の高い私でも頭までぶつかる感覚、しかも胸にぶつかるのはこの学校でも数えるほどしかいないだろう。 目を開けて確認したら案の定緑色が目に入った。 「いっ、たぁー…真ちゃん大丈夫?」 「あぁ大丈夫だ、寿は大丈夫か?」 「私は丈夫だから大丈夫」 はは、と笑ってみせたら安心したように真ちゃんは息を吐く、相変わらず真ちゃんは優しい。 今からなら歩いても教室にはつく、真ちゃんと並んである気ながらおは朝の話をする。一番外れの無い話題がおは朝。ささぽん(おは朝のアナウンサー)もびっくりだろう。 「寿」 「ん?なに真ちゃん」 「…絵を書いてくれ」 「絵って、私が?」 いきなりの事に思わず目を丸くさせる。そういえば今日の牡牛座は“急展開にどきどき!!”だった。本当にどきどきじゃあないか、流石おは朝。 「ああ、深い緑色を使った、木の絵」 「…あ、…」 お楽しみ会は、人形劇。その背景を作るのは私達の仕事だった。 ハケを滑らせて木を描く。あの時みたいに、溢す事なく。 「あの時みたいな段ボールではなく綺麗な画用紙に」 「…一応聞くね、応えなくてもいい、なんでいきなり?」 この階段を下りたら後はもう曲がり角を一つ曲がれば教室だ。階段が半分ほどまてきたと思ったら真ちゃんがくるりと振り返る。階段の差で目線がかち合った。 「おっ、お前の絵がもう一度みたいのだよ!!」 そういって階段をかけ降りて走り去った真ちゃんを茫然と見つめる。 急展開にどきどきとかいうレベルじゃないぞこれ。 ←|→ ⇒top |