・ルカさん最近来たばかり
・そんな空気あまり漂ってませんが一応ルカ→メイ
・また無駄に長い
・睫毛の話を地味に引っ張るメイコ
それでもよければ。








柔らかい日の光が部屋に差し込んで、室内を優しい色に染めている。
こんな日はのんびり過ごしたいと頭の隅で考えながら、ラスト一枚となっていた皿を洗い終えた。


家事も一通り終えてコーヒーでも飲もうと、メイコは電気ポットに沸騰させることにした。ミクが食後に紅茶を淹れる習慣があるけれど、念のため中身を確認する。十分な量のぬるま湯があった。
再沸騰のスイッチを押し、くつろぐためにキッチンから最も近くにある白いソファーに近づいて、座ろうとしたのだが。
白いソファーの殆どが、見事に桃色になっていた。
桃色の下から見える、ソファーとは違う白い肌を見て気づいた。
あら、ルカじゃない。
こんなところで眠るなんて彼女にしては珍しい。普段を思い返してみても丁寧な仕草や背筋を伸ばして姿勢良く座る姿しか目にした覚えがないのだ。
そんな彼女が今、ソファーに体重を預けて眠っている。

「…ん……」

まじまじと眺めていると、小さく呻いて狭い範囲にも関わらず器用に寝返りをうった。
そこでやっと、自分が立ちっぱなしであったことに気付いた。
…何してるのかしら、私。
ルカの眠るソファーの横にある同色のそれへと慎重に移動し腰かけた。
ソファーにもたれて一息吐く。 少し、眠たいかもしれない。
眠気を認識した途端に欠伸が出て。涙でぼやけた視界に入る暖かい桃色は、先程の寝返りと座った場所のおかげで顔がよく見えるようになっていた。
私よりも色素の薄い乳白色の肌、アイスブルーの瞳は桃色の長く濃い睫毛に覆い隠されている。
血色の良い唇からは規則正しい寝息が聴こえてきて、まだ眠っていることを示している。
成人女性型のボーカロイドとして作られたこともあり、可愛いよりは綺麗と形容すべき容姿のルカだ。普段あまり表情を顔に出さないこともその要素の一つと言えるだろう。しかし眠っている姿はあどけなくて可愛らしかった。最近来たとはいえ妹にあたるのだ、メイコには可愛い存在なのだけれど。
それにしても…睫毛の長いこと。
いつも長いと思っていたが、今は目蓋を閉じているから一層目立つ。長くてボリュームのある睫毛がまた可愛いとメイコは思っていた。
…どれくらいあるのかしら…?
ソファーから身を起こし、前傾姿勢で顔を近づける。
1、2、3、4…意外と数えにくいものね、睫毛って…。
めげずに数えていると、桃色のそれらは少し震えて突然アイスブルーへと変化した。
「わっ…!?」
「…メイコ、さん?」
お互いに瞳をまんまるくして数秒固まる。
急に目が合って驚いた、見つめていたことを知られて恥ずかしい、驚いた顔は初めて見たけどやっぱり可愛い、なんて。そんな諸々が混ざり合って軽くヒートしそうだった。しかし姉とゆう立場上、冷静さを取り戻して言わないといけない。
驚かせてごめん、と口にしようとしたその時。
ピーッとゆう電子音が私の言葉を遮る。どうやら沸騰が終わったらしい。なんとも間が悪い。
「ぉ、……あー…えっと、ルカもコーヒー、いる?」
「え、あ、頂きます」
とりあえず、コーヒーを淹れよう。そして落ち着こう。
「ミルクは?」
「目を覚ましたいので、ブラックでお願いします」



コーヒーの入ったマグカップを二つ持ってソファーに戻るとルカがありがとうございます、と律儀にお礼をしてくれた。
「どういたしまして。はい、どうぞ」
背の低い木製のテーブルにルカのマグカップを彼女の前に優しく置いて、座る。
大丈夫、コーヒーを淹れてる間に落ち着いたはず。言いたいことも整理できた。ルカが何か言いたそうに私の方を向いているけど、これ一口飲んだら私からさっきの続きを話すから。
マグカップを口元に運び、コーヒーを一口。
「メイコさん、それ私のマグカップですよ」
噴き出すかと思った。
なんとか堪えて食道へと流し込み、慌ててマグカップを確認すると確かにルカのそれで。
「ご、ごめん…!!」
私は良いんですけど、といつもと変わらない無表情とも言えないが表情が読みとれないルカが返す。
自分よりも落ち着いて見える彼女になんだか落ち込む。実際落ち着いているんだろう。だがしかしこれではどちらが姉だかわかったものではない。
此方から話を切り出さなければ…!
「ところでメイコさん」
「……何?」
さっきから何なの、この出鼻の挫かれようは。溜め息出そう。
家事をしていたのとは明らかに違う疲れを感じ始めていた。辛い。
「私が寝ている間、何か用があったんじゃないですか?」
「え?」
「目の前で真剣な顔をしていたじゃないですか。」
「そ、それは…その…」
聞かれるとなるとやはり答えにくいもので。しどろもどろになる私を、やはり感情の読み取れない顔をしてルカは見つめ続けているようで視線を感じる。
バツの悪い気持ちで、いつの間にか下を向いていた頭を少し上げて様子を伺うと、アイスブルーの瞳を縁取る桃色の睫毛にまたも視線を奪われた。やっぱり長くて、
「…綺麗」
「え?」
口から自然と零れていたらしい。やってしまった、と今度はちゃんとルカの睫毛から顔に視界を広げると、キョトンとしか表現のしようがない表情をしていた。それがなんだか可笑しくて、ついプッと笑ってしまった。
「え、え?」
今度は綺麗な眉を下げて、困惑の表情。こんなにも表情が変わる子だったのか。
「あの…何が可笑しいんでしょうか」
「ふふふ、ごめん、そうじゃないわ」
更に困惑を深めたようで、?マークが飛び交っているのが見えそうな程だ。
「ルカが可愛くて、嬉しくて笑ってるの」
「そんなことないです!」
「えっ」
急に真剣な顔で。口調は丁寧なまま、けれど普段よりも強い語調でつい気圧されてしまった。
「メイコさんの方がずっと、可愛いです」
優しい微笑みを浮かべてでサラリとそんなことを言いきるルカに赤面しつつも、そう言うあんたが可愛いのよと心の中で呟いた。



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「とっ、ところルカ、こんなとこでなんで寝てたの?」
「メイコさんが洗い物終わらせるのを待ってたんですが、途中で眠気に負けました…すみません」



どこまで可愛いの、この娘は!
どこまで可愛いのでしょう、この人は!



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