「やっぱこの時間は混むね」
「そうね、はぐれないように気をつけてねミク」
人の多い夕方の駅構内。今は所謂帰宅ラッシュの時間で、仕事終わりの多くのOLやサラリーマンがそれぞれの帰路に着くために電車から吐き出されたり、吸い込まれていく。
他の線や交通機関に乗り換えできるこの駅は、より一層混むのだろう。
乗り換えをしようと階段を上がっていると、反対に電車に乗ろうと下ってくる人がチラホラ見えてきた。多分この後はもっと増えるだろう。
「お姉ちゃん、手、繋いでもいい?」
「ふふ、いいわよ」
隣を歩くミクがそっと左手を出してきたので、右手でそれを包んでやると少し嬉しそうに微笑んでくれた。本当に私の妹は皆可愛い。
そうだ、後ろにいるリンとルカにも手を繋いでもらった方がいいかもしれない。
「ルカ、混んできてるからはぐれないようにして」
「わかりました」
肩越しで後ろにいるルカに伝えると私達の動向を見ていたのか、すぐに了解の意を返してくれた。
前方から来る人とぶつからないためにも再び前へ向き直ると、不意に背中の窪み辺りでTシャツが軽く引かれ始めた。多分ルカがはぐれないように摘まんでいるのだろう。
小さい子供みたいなその行動が可愛くて、軽く笑みが浮かんでいるのが自分でわかった。いけないいけない。
そんなことを考えていたら引っ張られていたところはまたすぐに元に戻って、その代わり何故か腰を持たれた。しかも両手で。
「…ミク、なんか…」
「うん、それはルカちゃんの手だね」
どうしてこうなった。
疑問を述べる前にルカの手がむにむにと腰を揉み始めた。
「あぁ、メイコさんの腰柔らかいです…」
「何それ嬉しくないってかあんた何してんの!」
「メイコさんの腰掴みやすくて気持ちいいのでつい…」
「そうじゃなくって、リンと手繋ぎなさいよ!」
「リンならミクと手を繋いでますから大丈夫ですよ」
右隣を伺うとそこにはミクと楽しそうに話すリンがいた。何よりミクがこちらの挙動を無視していることが地味に悲しい。
「そんなわけでもう少し掴んでますね、はぐれないように」
「離していいから、もうあんた帰ってこなくていいわよこのセクハラ魔」