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「どうしたの?今日は俺にいっぱい苛められたいの?」

俺と同じ顔の人間が、俺に組伏せられている。昂った表情は取り繕おうとして却って情けなく歪んだ。
高貴な身分を示す衣服は剥かれ、ただの布切れとなって床に捨てられていた。

「兄さん。あいつのこといっぱい苛めたから、自分も苛められたくなっちゃったの?」
「ちゃんと言わないとずっとこのままだよ?」
「―――っぁ、ニ…ウェ、」

両の腕を寝台に押しつけられ、白磁の胸板を晒した一国の王が、同じ顔をした弟の名を呼ぶ。愉悦と屈辱が溶け合った声は生娘のように上気していた。
俺はきっと、対照的に冷ややかな笑みでその様子を見下げている。自らも衣服を脱ぎ去り、大きく広げさせた兄の脚の間に身体を割り入れる。性行為の恰好。だけれどまだ行為はなく、固くなった二人の性器は互いの腹をぬらぬらと汚す。

「兄さん、すごく綺麗だよ」
「………っ、―――ぁ」

右手を伸ばし、俺と寸分違わない形の耳殻、首筋、鎖骨をなぞり降りていく。その痕を追いかけて啄むように口づけを降らせると、吐息のような喘ぎ声が漏れ出る。
舌が乳首を掠め、臍をくすぐる頃には右手は腰骨に到達し、そのままベッドと臀部の隙間に差し込むと、いとも簡単に下半身が持ち上がる。

高い位置で抱えてやると、自然と腰を突き上げた体勢となり、会陰が俺の腹筋に押し付けられる。
だらしなく開いた口から、はっ、と絞り出された吐息は熱に震えていた。

「ニー、ウェ―――っ!! っ゛、あ゛!」
「兄さん、」

腹を汚す透明な液を指先にたっぷりと浸し、胸板の上で固く立ち上がった乳首に塗りつけると、言葉を繋げる間もなくよがり声をあげた。

「今日俺が地下でしてる間、何考えてた?」
「――っ、や、っい゛」
「乳首。気持ちいいね? 俺があいつのこといっぱい弄ってたとき、兄さんもこうして欲しかった?」
「こんなの、誰にも教えられないね」
「あ゛―――、い、……っ゛、っ!!」

抵抗も反論もできず、俺のゆるゆると、しかし一時の間も空けずに快感を送り込む指の動きに翻弄され歪む顔が、愛おしいと思う。

「その顔、早くめちゃくちゃに乱れたくて、矜持なんて捨てろって俺に言われるのを待ってる顔、たまらないよ、兄さん」

熱くなった自らの先端をそっと入り口に押し当てただけで、白い喉が仰け反り震える。

「覚えてる、兄さん? 兄さんがこうやってあいつに入れようとしたとき」
「拘束具がちゃがちゃ言わせて、めちゃくちゃに抵抗してたよね」
「ねえ、あいつの中、気持ちよかった? 熱かった?」
「見て、兄さん。今から兄さんが、あいつみたいに犯されるんだよ?」

愉悦の高ぶりを抑えきれず、熱に浮かされたような俺の言葉が兄の、ユーインの、一国のに君臨する身分の理性も矜持も真っ白に塗りつぶしていく。

「お、ねが……ニーウェ、入れ――…っ、」
「そんなお上品なお願いの仕方じゃだめだよ。あんなにひどいことをしたんだから、兄さんも恥ずかしいこといっぱい言わないと」

いまだ先端を押し付けられたまま、刺激を求めて快感に潤んだ眼が助けを求めるようにこちらを見上げる。

「犯して、俺、の…っこと、」
「犯してください、でしょ」

言いながらも、俺の先端が熟れそぼった孔を押し開いていく。

「っ、入っ、…て―――犯して、くだ、さ、っ」
「聞こえないよ」

つぷつぷつぷと分け入っていく質量と求めるものにはほど足りない快感に、兄弟とはいえど身分が低い者へ紡がれる懇願の声。
ようやく半分を飲み込んだまま、その奥の刺激を求めて腰がぐらぐらと揺れている。

「っぁ、ぉ、く……まで、ぇっ」
「あっという間に陥落だね。兄さんが敵に捕まっちゃったら、そうやって僕たちの秘密をペラペラしゃべっちゃうわけ?」

言いながらさらに奥へと推し進めていくと、赤い唇からあ、あ、あ、と女のような声が漏れる。

「うわ、すごい締め付け。もしかして、想像して興奮した? いいよ、自分が敵に捕まった時のこと想像してごらん?」

いつしか最奥に到達したそれを、ぐいぐいと押し上げてやる。頭を左右に振り、髪を振り乱す様にもはや王の面影はない。

「犯して―――犯して、くださ、い…っ」

その言葉を皮切りに、理性より先に本能が腰を打ち付けていた。
一定の間隔で皮膚がぶつかる音に、忽ち、互いの体液が混ざり合う卑猥な水音が重なる。

「あ゛っ、っあっす、ご――っニーウェ……ニーウェ、」
「兄さん、兄さん―――ああ、僕に犯されてこんなに感じてるんだね、兄さん」

「美しい」と思う。同じ顔をしているはずなのに、この瞬間はそんなことはすっかり忘れて兄の乱れる顔に魅了される。
眼前の 肢体 に夢中になりながらも、兄の悦ぶ場所を外すことはしない。一突きされるごとに悲鳴のような色を帯びる嬌声。

「だめ、だよ…こんなに、ドロドロのぐちゃぐちゃになって、気持ちよくなって、ーーーいいの?」
「あ゛っ、ーーーああ゛っ、は、ぁ゛っや゛……ッ!!」

「イク? イクの? 俺に犯されて、奥までぐちゅぐちゅ突かれて、気持ちよくなって」
「イ、ク、っぁい゛くーーー」

白磁の身体が喉を見せ仰け反りながら激しく引き攣れる。 ぎゅうぎゅうと締め付ける更にその奥に捩じ込むように、さらに腰を打ち付ける。

「 あ゛──っも゛、い゛った……か、ぁッ!!」
「まただよ、」

先ほどの自らが痛め付け、陵辱した捕虜と変わらない、不純な快感に溺れる奴隷に成り下がった、自分と同じ顔をした兄の姿。普段の高貴な姿からは想像もつかない、自らの意思とは関係なく快感に腰をうち震わせる様に、自分の表情が興奮に歪むのがわかった。

「ほら、見て兄さん。さっき兄さんがしてたみたいに、俺がいっぱい犯してあげる。兄さんがどんなに嫌がっても、女みたいにイカせまくってあげる」
「も゛、やめっ、ニ…ウェッ、や゛っ、だ、っめ…ぇっ」

快感から逃れようと捩る身体に追いすがるように被さりながら、繰り返し呼ぶ兄の名が次第に熱を帯びていく。

「ダメじゃないよ。兄さんがこうされたいから俺がこうしてるんでしょ? やらしい王様。同じ顔の弟に犯されてとろとろになってるね。」

双子だから、相手がどうされたいのか手に取るようにわかる。そしてそれをされて、どれだけ悦んでいるのかも全部。

「ねえ、さっき自分があいつにしたこと思い出して? あんなにひどいことしたのに、今度は自分が同じことされて、こんなに気持ち良くなっちゃうんだ?」

兄さんのされたいことをしてあげる俺自身の快感と、されたいことをされて悦ぶ兄さんの快感。二つの快感が同時に身を浸していく。

いつも、思う。きっと俺と兄さんは一人の存在として生まれてくるはずだったと。けれども一人では背負うものがあまりにも多く、誰かが俺たちの身体をふたつに分けたんだろう。

だから、兄さんも俺も、強くて、とても寂しい。

「ニ、ウェ…ッ、ニーウェ、…」
「兄さん、」

分け隔てられた魂が互いに呼び寄せるように、二人の境界線が曖昧になる。
お互いの快感が流れ込んでくるような錯覚に堪えきれない嬌声が漏れる。
生きていて、唯一寂しさが紛れる瞬間。

「あ、はッ──ぁ、い゛、く、」
「────っ!!! っぁ゛、──ッ!!」

そして、たまらなく孤独で、兄を呼ぶ瞬間。

「兄さん、」
「兄さん。兄さん──ユーイン、」

兄さんの上に倒れこむ俺を、力の入らない両腕が抱き止める。

兄さんは何も言わない。
それでも、重なる腕が、胸が、脚が、互いの皮膚の温度が、俺たちが再び外界に投げ出されたことを告げていた。

まどろみの中で、最後の抵抗のような口づけをかわしながら、寂しさから目をそむけるようにふたりは瞼を降ろす。



起きたら、ひとつになれやしないかと夢を見ながら。

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