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「ほらぁ、そろそろ我慢できなくなってきた?」
「そ…なっ、わけ」

ときどき水の落ちる音がする。窓もなく、薄暗いその部屋は地下にあるのだろう。

部屋の中央、柱を背にして天井から吊り下げられている青年は、裸だった。まだ若いが、鍛え上げられている身体には、治りきらない生々しい傷痕が幾つもの戦場を経験してきたことを物語っている。

青年の手首はひとつに纏めて縛りあげられ、鎖の先は天井に埋め込まれた金具へと結びつけられている。わずかに床にふれることを許されたつま先が、先ほどから小刻みに震え始めていた。

「一国の騎士が、こーんな格好で、恥ずかしいね?」
「だ、まれ…!」

騎士だという青年の、後ろにいる男が耳元で言う。歳は同じくらいだろうか。飄々とした佇まいだが、身に纏う服装が高貴な身分を物語る。

騎士の青年が吹きかけられる息から逃れるように身をよじるが、そのたびに鉄骨の柱が背中に食い込み、苦痛の表情を見せる。

「まだまだ元気みたいだね。虐めがいがあるよ。――ねえ、ユーイン兄さん」

兄さん、と呼ばれた男はかつての気高い騎士に対面するように座っていた。呼びかけた男と、寸分違わぬ同じ顔。だけども足を組んで気だるげに騎士を眺めるその姿が纏う雰囲気は重い。服装からしてもさらに上の身分を思わせた。

口の端に笑みを湛えているが、瞳の奥には、目の前の獲物を値踏みするような、飼い慣らされた闇が息を潜めている。

「そうだなあ、ニーウェ。少しは楽しませてもらわねば、せっかく捕らえさせた甲斐がないというものだ」

彼が座っているのは、玉座だった。王が座るにはいささか陰鬱にすぎるこの場所にわざわざ取り付けさせたのであろうそれは、これまでにも何人もの悲鳴や懇願、嗚咽を前にして佇んでいたのだろう。

ここは、そういう場所だった。



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