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『次は、生徒会長、成瀬優君の挨拶です』
アナウンスが告げ、優は壇上にあがる。緊張の為なのか、その頬はわずかに上気している。それでも生徒会長として場慣れした様子で、表情には余裕が見られる。
演台の前に立った優に、全校生徒の視線が集中した。彼を初めて目にする新入生の間で僅かに囁きが交わされる。そのほとんどが彼の外見を誉めるものだと、容易に想像がついた。
優は心を落ち着けるように体育館を見渡す。静かに息を吸う音がマイクに拾われ、続いて明瞭な声が体育館に響いた。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんは今日から―――」
入学式には付きものの、お決まりの言葉を並べていく。歴代の生徒会長がなんの疑問もなく受け継いできた言葉だった。
話しながら、優はたくさんの視線を意識する。明らかに好意を持って彼を見るもの、特にすることもないのでぼんやりと視線を送るもの、様々な目が彼を捉えている。
わずかな高揚。だけれど、役員選挙のときから人前で話をする機会を重ねてきた。だから、多少の緊張感はあるものの、大きなミスをすることなく今回も滞りなく終わるはずだった。
「――不安なこともあるでしょう、が、………っ」
突然、目の前に黒い影がちらついた。頭を振って影を追いやろうとするが、目の前の原稿が読めなくなるほどに、視界のほとんどが黒く塗りつぶされていく。
とっさに演台に手をついた。しっかりと立っているはずなのに地面がぐらぐらと揺れている。目を開けているはずなのに何も見えなかった。
異変に気づいた生徒たちのざわめきが、頭の中でやけに反響しているようだった。それまでよそ見をしていた生徒も優に注目し始めている。
ぐらり。今度こそ優の身体が大きく揺れた。あ、倒れる。いやに冷静なままで、意識を手放す直前、優はたくさんの視線を感じていた。
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