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「…がっ、―――っ」
「もうそろそろ白状してくんないと、僕の指の骨折れちゃうよー?」

薄暗い空間。地下なのだろうか、窓は一つもなく、無機質な蛍光灯の明かりに打ちっ放しのコンクリートが晒されている。

家具らしい家具もなく、あるのは、何の為なのか、壁際に5つも設置された頼りなげな蛇口と、部屋の隅で埃を被っている粗大ゴミたち、そして部屋を這うさび付いたむき出しの配水管。

それから、縛り付けられた少年。向かい合う、男。

少年の上半身は裸だった。まだ幼い、白くなめらかだったはずの肌は痣や擦り傷に汚れている。配水管に後ろ手に手錠でつなぎ止められ、なすすべもなく暴力にさらされて、ただ涙を流し続けている。

「知らな、い、わかん、な――ッ!!」
「いいんだけどさぁ、これはこれで楽しいし。――君みたいな強情な子、大好きだし?」
「ちが、ぁ、俺なんも、知らない! 本当に!」

少年をいたぶる男は、不自然なまでな白さを身にまとっている。ただ、目だけが紅く、獲物をとらえている。

アルビノ、だった。少年より年上に見えるがさほどは変わらないだろう。華奢な拳だが、少年の腹に埋められるたびに、確実に少年から体力も気力も奪っていく。

彼は気がつけばここに拘束されていた。なんだか訳の分からない質問をされ、知らないと言えば殴られた。こんな状況を少年は知っている。ただしアニメや漫画の世界だけだ。ともすれば冗談のようにも思われるこの状況で、少年はただ涙ながらに「知らない」と訴え続けることしかできない。

「へーまだ頑張るんだ、じゃあもうアレ、イっちゃおうか」

男の言葉に、どこからともなく黒服の男達が現れる。いずれも、顔の上半分を覆う仮面を付けている。いよいよ現実味がないな、なんて少年はぼんやりした頭で考える。しかし、男達が少年のズボンに手をかけると、とっさに身をよじった。

「な、に!? やだぁ!」
「大丈夫だよ、もう痛いことはしないから」
「―――ほんと、に?」

少年の顔に安堵の色が広がる。その頬を、それまで少年を痛めつけていた手のひらが優しくなでる。次の瞬間、アルビノの男は紅い瞳を細めて少年に残酷な現実を告げる。

「――ただ、痛い方がましだ、って後悔はすると思うよ?」

その言葉の意味するところを少年が理解するのに、数秒。安堵した表情がみるみる凍り付いていく。その間に黒服たちはもう少年のズボンに手をかけていたため、なに、とか、なんで、とか発しようとした声は、言葉にならない細い悲鳴となって薄暗い部屋に反響する。

「―――やだ! 許して! 離してよお!!」

何をされるかわからない恐怖。だけどこれから今より辛いことをされるという事実だけが告げられて、少年の心に絶望を植え付けていく。

「ワガママだなあ、許してほしければ早く吐いちゃえばいいのにねえ?」
「だから、知らない! 僕関係ない!」

暴れる少年の抵抗もむなしく、黒服達がズボンを剥ぎ取りトランクスまでも奪っていく。一糸身にまとわぬ姿にされた少年は、身を守る物が何もない恐怖に白い肌をますます白くする。

少年の必死の訴えに軽く首をすくめ、男はいつの間にか用意されていた容器と筆を手に取った。中は無色透明の液体で満たされており、液体に沈められた筆先を持ち上げるととろとろと糸を引いた。

その筆を手にしたまま、つかつかと少年に歩み寄る。そしてなんのためらいもなく少年の縮こまった性器に手を伸ばした。

「――― な!! やめろっ…やだぁ!!」
「うひゃー、かーわいい」

皮に隠れた先端を、片手で器用に剥いて空気にさらす。男がちゃかすように「かわいい」と評したそれは、まだほの紅く、さほどの質量も伴っていなかった。

男はおその果実のような先端に、筆にたっぷりと含ませた薬を塗り込めていく。

「なに、これ、ぇっ! 冷た、」
「――さて、君はどんな風に悶えてくれるのかな? 楽しみだなぁ。早く見たいなぁ…!」

男の少年を見る目が明らかに興奮しているのがわかる。同じ男の性器を前にして欲望をむき出しにし始める男に、そしてその男の台詞に少年はますます恐怖する。

「な、に、何塗ったの! やだっ怖い!」
「―――、」

男は薬を塗り終えると少年から距離をとる。それは、明らかに少年の様子を観察するための行為だった。血走ったような眼差しは、まるで紅い瞳が一回り大きくなったかのように少年をとらえて離さない。

黒服達もいつしか食い入るように彼の身体を見ている。見られている。その感触のない、しかし確実に身体を這い回る視線に、少年の身体はぞわぞわと粟立っていった。
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