▼コピーとエラーとつぶやきと
(社会人設定)





コピー機のエラーの音が響いた。

時間もあいたし、と入れに行っていた紅茶を持ったままその横を通りかかると、忍足が困った様子でコピー機に向き合っている。

「なんやねん…。」


きっと独り言。
だけど聞こえてしまったその声に、思わず小さな笑いがこみ上げてきた。


普段から仕事もできるし、周りからも慕われている。
女子からの人気は言うまでもない。
そんな彼が、コピー機相手に苦戦しているなんて。


普段ならそんな様子を見つけたら女子の一人や二人、駆け寄ってきて手伝いそうなものの、今日はみんな外回りだったし、打ち合わせだったりで姿が見えない。
あんな言葉を聴いてしまって、そして、まだ立ち尽くしてコピー機のボタンを押しながら苦戦している姿を見てもほっておくような忙しさは、持ち合わせていな
かった。





「どうしたんですか?エラー?」

横からひょい、と覗きこむようにしてコピー機を見ると、画面にはエラー表示。
そういえば最近エラー音を聞く回数も多かった気がする。

「さっきは転送エラーで今回は紙詰まりやて。」


名前の姿に一瞬驚いた様子を見せた忍足だったけれど、それが名前だとわかると小さく息を吐いて、そう説明した。
その口調はどこか拗ねている様。


「さっきからなんや俺の時ばっかりエラー出てへん…?」



そんな事はないと思うけど…と、名前は苦笑した。
「忍足さんがよく使ってるだけじゃないですか?今日はみんな出てるし…。」
「んー……。」


それでもエラー連発にすっかり機嫌を損ねてしまってる姿に、名前は気づかれないようにこっそりと笑った。
そして、近くのテーブルにコップを置いてコピー機に手を伸ばす。





「このエラーならこれ押して、こっちみて…。」


よく知ってるコピー機でよかった、と名前はそっと思うとエラー解除のための作業をこなしていく。
「とうっ!」
作業に夢中になって思わずそんな声を出しつつ、詰まった紙を引き抜くと、名前は最後にボタンを押した。
すると画面は何事もなかったかのように元通りに戻った。




「これで大丈夫だと思いますよ。一応読み取り部分の掃除もしておきましたから。」
「お〜…ありがとうな。」

嬉しそうに忍足はそういうと席に戻ってパソコンをいじり始める。
するとコピー機が音を立てて動き出して、書類が今度は問題なくでてきた。
もう一度忍足はコピー機に近寄ってきて、その書類を確認する。


「うん。ちゃんと出来とる。苗字さんのおかげやな。おおきに。」
「いえいえ。どういたしまして。」






名前にとってみれば本当にたいした事のない作業で、むしろ嬉しいトラブルだったこの事が、忍足にとっては一つのきっかけになったと名前が知るのはまだ先の事……。







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