「やぁ名子!」
………………来た。五月蝿い奴が。
「今日も良い天気だ、そして良い天気だ!」
キース・グッドマン。一応私の彼氏。
彼は何故同じことを二回言うのだろう。阿呆なのか、天然なのか。
「そうね…良い天気ね」
私は適当に頷いた。
今、私は仕事の真っ最中なのだ。
彼の相手どころではない。
「名子、もしかして仕事中かい?」
天然の彼はやっと気がついたようで、申し訳なさそうな顔をした。
「えぇ、まぁ。明日までに仕上げなくちゃいけないの」
「そうか…よし、良いことを思いついたぞ!」
「へ?」
私は嫌な予感がした。彼の"良いこと"は大抵、"悪いこと"なのだ。
「私が一緒に手伝おう!」
…………これは"良いこと"なんだろうか、それとも"悪いこと"なんだろうか。
「私は何をすればいい?」
キースは満面の笑みで聞いてきた。
…悪気はないんだろうな。
「えっと………じゃあ、黙ってて」
「えっ」
「………………。」
彼はこの世の終わりのような顔をした。
「……………………じゃあ、この画面に出てる円グラフを折れ線グラフにしてくれる?」
「任せてくれ!そして、お任せあれ!」
……………心配だ。
「………名子。」
それから30分後。
キースは悲しそうな顔で私に話しかけてきた。
「どうしたの?」
私はPCの画面から目を離さず、返事をした。
「その……………折れ線グラフとは何だ?説明してくれないか」
…ツッコませてください。
そこからかよ!!!
「えーと、ぁ…」
言葉に詰まる私。
キース以外の人なら、ツッコむことができるが、キースは…うん。
「な、なら、……………うーん」
どうしよう。
キースにできそうなことが、ない。
「…………すまない」
彼は悲しそうな顔のまま、部屋の隅に行った。
…………隅?
「ちょ、何してるの?」
「私は役に立たないから、隅っこで黙って座っているよ」
「いや…それは」
「私は名子の役に立てなくて、悲しい。そして、悲しい。」
「キース……………。」
「明日までなんだろう?私のことは無視して仕事を続けてくれ」
「………。」
私は仕方なくキースからPCの画面に視線を戻した。
彼は黙っている、とか言ったけどそんなことできるんだろうか。
私の前ではいつも喋ってばっかりで…
……………………………あ。
「ねぇ、キース」
PC画面からキースに視線を戻した。
彼はうずくまっていた顔を上げた。
「ん?なんだい…?」
「何かお話、して」
「え?」
「ずっとPC画面見てたらつまんなくなってきちゃって…。何か面白い話ない?周りのヒーローの話とか」
「あ、ああ……。」
彼は、何故そんなこと、と言いたそうな顔をしていた。
「キースの声、落ち着くしね」
紫色は黙らない
(ではワイルドくんの話をしよう!)
(また何か壊したんでしょ、どうせ)